緋色のバーコード (後編)

アンジール達のミッションは明日からだが、ジェネシスのミッションは今日からだ。午後には出立しないといけない。自室に戻り、何時でも出られる状態に準備を整えてると、突然の英雄の訪問があった。
「何しに来た? 俺はもうあまり時間が──
「何故、アンジールと任務を代わった?」
行き成りの詰問にジェネシスは俯いて、くっと苦虫を噛み潰したような顔をする。どうせバレる事は分かっていたから、セフィロスに会わないうちに出ようと思っていたのに、意外と情報が早い。
「あんたには関係ない。こっちの事情だ」
わざと理由を告げずに突き放す。セフィロスと同じ任務が嫌だから、などと本当の事を言えば却って面倒な事になるのは目に見えている。
「そうだな……。お前達は幼馴染み、だったな」
急に少し瞼を伏せて目を逸らし憂い顔になるセフィロスに、ジェネシスはつれない態度を取り続けるのが申し訳なくなった。
「セフィロス……」
慰めるように、その白銀の髪を少し撫でてやる。
付き合い始める前に比べるとセフィロスは少し変わったと思う。自分の影響── というよりは、アンジールの影響のような気がするが。
今までセフィロスの周囲には、アンジールみたいな飽くまでも友人として親身になって相対してくれる人間がいなかったのではないだろうか。セフィロスとアンジールは、自分とはまた違った友人関係を築き上手くやっている。別な意味で少し妬けるくらいだ。
複雑な面持ちでセフィロスを見詰めていると、不意に肩を掴まれ近くの壁面に背中を押し付けるように固定された。だが、覗き込んでくるセフィロスの表情は相変わらず切ないままだ。
「暫く会えなくなるんだ。少し……好きにさせてくれ」
その言葉にジェネシスは一瞬身を竦ませ身構えてしまったが、止むを得まいと大人しく瞼を伏せた。
ふと唇に当たる柔らかい濡れた感触。
それは常のセフィロスからは考えられないような、舌さえも絡ませようとしないキスだった。まさに壊れ物を扱うような── という形容がふさわしい。
本当にそんな触れるだけの繊細なキスをして、セフィロスは「もう時間が無いんだったな……」と小さく呟くと、それ以上の事は何もせずに出て行った。
暫く呆然として壁面に寄り掛ったまま立っていたが、ジェネシスも慌てて最後の身支度を済ませると部屋を出た。
足早に廊下を歩きながら、無意識に指で唇に触れる。思い出しただけで頬が朱に染まりそうな優しい感触。あんなキスをされたのは初めてだった。
再度指で唇に触れ、先程のキスを反芻する。遠慮がちな、どこか臆病でさえあった。
そんなにも、自分がアンジールと任務を変わった事がショックだったのだろうか。まるで悪い事でもしてしまったかのような、罪悪感にも似た想いが過ぎってジェネシスは少し胸が痛んだ。

任地に到着してジェネシスはアンジールが何故このミッションを希望していたのか、何故ジェネシスになら寧ろ行って欲しいと言ったのか、その理由を直ぐに理解した。
その高原には見覚えのある紅い華が咲いていた。とは言え、直に見るのはこれが初めてだったが。今まではアンジールの写真でしか見た事のない、稀少な紅い百合。
ウエスタンリリー。
間近で見て、その美しさに改めて息を呑む。此処はウエスタンリリーの数少ない生息地のひとつだったのだ。

◇◆◇

「アンジール、俺はジェネシスに避けられているんだろうか?」
「なんだ、お前達。やっぱり喧嘩でもしたのか?」
「いや、そういう訳じゃないが……」
ジェネシスが英雄を嫌いな訳は無い。だが、避けているという可能性は否めない。何故なら、ジェネシスにとってセフィロスは憧れの対象であると同時にライバル視している相手だからだ。あの天邪鬼な幼馴染みは、憧れの相手だからこそ一緒の任務に就きたくないのではないか。
そうアンジールは解釈していたのだが、まさかそれをそのままセフィロスに伝える訳にはいかない。ジェネシスは自分の憧れがセフィロスである事は、アンジール以外には話していないと思われた。少なくとも神羅に入社してからは、そういう話はしなくなった気がする。当然セフィロスにも言ってないであろうし、友人となった今は尚更知られたくないだろう。幾ら幼馴染みとはいえ、ジェネシスが敢えて秘めている事を勝手に話す事は出来ない。
「なんで、避けられていると思うんだ?」
論点をずらす為に逆に質問をしてみる。
「お前と任務を代わっただろう? 本来は俺とジェネシスだった筈だ」
「ああ。ジェネシス本人に理由は聞いたのか?」
「……教えてくれなかった」
「じゃあ、俺も教えられないな」
何か適当な理由をでっち上げる事は簡単だったが、それはしたくなかった。
少し沈んだ表情を見せるセフィロスに、アンジールは苦笑しつつ続ける。
「実は、俺も理由は聞いていないんだ。まあ、あいつは気まぐれな奴だしな……深く気にするな」
そう言うと、アンジールはぽんぽんと宥めるように英雄の肩を叩いてやった。
「ああ、ひとつだけ教えられる事があったな」
不意に思い出したように大きめな声を発すると、アンジールはごそごそと懐を探って一葉の写真を取り出した。
「ウエスタンリリーという百合だ」
アンジールは写真を見せながら説明する。
「赤い革のコートを着ているジェネシスが、俺にはどうにもこの華と被って……な。一度見せてやりたかった。だが、この華は非常にレアでな、生息地も限られている」
「それと、任務を代わった事と何の関係がある?」
「今ジェネシスが行ってる任地は、この華が咲いている数少ない場所なんだ」
セフィロスはアンジールから写真を受け取って、まじまじと見詰める。
そして、ぽつりと言った。
「俺もこの華が、見てみたい」

◇◆◇

DNAバーコードの収集。
それは確かに容易い仕事だった。モンスターと戦ってはその細胞を採取するだけ。だが、ラザードが言っていたようにこの地域はランクが上の強力なモンスターが良く出現するので、そうおいそれとは気が抜けない。任地はとてものどかな高原であったが、のんびり景色を楽しむ……と云う訳にはいかないところが口惜しい。
1stになると単独任務が多くなるが、ジェネシス自身はチームプレイなどの方が苦手であったから、単独任務の方が気楽で良かった。
多分、幼馴染みのアンジールは自分とは逆で、2ndや3rdを引き連れての合同任務の方が得意だろう。そういう意味でも今回の任務は代わって貰って正解だったかも知れない。
この高原で、特に出現率が高いのはデュアルホーン系のモンスターであった。アンジールから聞いたところによると、ウエスタンリリーがその生息数を大幅に減らしたのは、人間に過剰に採取されたからと言うだけではなく、デュアルホーン系のモンスターに踏み荒らされてしまったのも原因のひとつらしい。そのおかげと言っていいのかどうか、デュアルホーン系のDNA断片は順調に採取が進んでいた。
後は、グランドホーンに出会えればコンプリートだ。そう思っていた矢先、ジェネシスは遂にグランドホーンと対峙した。しかし、そのグランドホーンは1stであるジェネシスが一瞬たじろいでしまう程に、桁違いに大きく、明らかに規格外のサイズだった。
咄嗟に身構えてレイピアに手を掛ける。苦戦は免れない。瞬時にそう判断せざるを得なかった。
ジェネシスはソルジャー1stならではの身体能力を以って、極力グランドホーンの背後に回りレイピアでダメージを与えていく。グランドホーンが身体の向きを変え、突進してくるタイミングを計っては寸前のところで身軽に避け、再び背後に回る。
だが、通常よりも一回りは大きいのではないかと思われるこのグランドホーンは、HPも通常より多いらしい。かなりのダメージを与えた筈だが、一向に倒れる気配を見せない。もしかしたらコイツは新種のグランドホーンなのかも知れない。そんな考えさえ脳裏を掠める。
「クッ、このままでは埒が明かないな……」
グランドホーンは魔法無効、物理無効の特性がある上、炎などの効果は半減してしまう。
しかし、ジェネシスは魔力には絶対の自信がある。特に炎属性の魔法は得意中の得意だ。フレアかアポカリプスを使えば、例え半減されたとしてもかなりの大ダメージを与えられるだろう。
ジェネシスはレイピアを抱え上げ、刀身を紅く光らせる。
詠唱を始めようとした刹那、ジェネシスの目端に入る緋色のウエスタンリリー。
反射的にジェネシスは魔法の詠唱を止め、レイピアを下ろした。レイピアに付けてあったフレアのマテリアを外し、別のマテリアを取り出そうと慌てて懐を探る。
その僅かな間に隙が出来た。
グランドホーンの獰猛且つ大きな角に突き上げられ、気が付くとジェネシスの身体は宙を舞っていた。
容赦なく地面に叩き付けられながらも、ジェネシスは辛うじて取り出した黄色いマテリアをレイピアに装着する。所持していた他のマテリアは殆んど突き上げられた際に辺りにバラバラに散って落ちてしまった。けれど、今はこの黄色いマテリアさえあれば良い。
暗黒のマテリア。
全身が軋むように痛むが、1stとしての精神力と矜持がジェネシスを立ち上がらせ、再びグランドホーンに向かって斬り掛っていった。

どうにかグランドホーンを倒し細胞の一部を採取し終えると、ジェネシスはその場にばったりと倒れた。グランドホーンの突進をまともに喰らってしまい、その上倒す為に自らの生命力を削る暗黒のマテリアを使った。瀕死に近い状態だ。
回復系のマテリアも散らばってしまい何処に行ったのか分からない。探せば見付かる位置にはあるのだろうが、今は起き上がる事すら不可能であった。
大地の上に仰向けに横たわったまま、全身に走る苦痛に耐えつつ懐の黒い携帯端末を取り出す。
「やっぱり……これもイカれた……か」
くつくつと苦笑を洩らすが、苦痛に遮られ長くは続かない。
だが、ジェネシスは楽観的だった。携帯端末が使えないという事は、ラザードへの定期報告が入れられない。つまり、ジェネシスからの定期報告が無ければ、向こうはこちらの異常に気が付く筈。よしんば気が付かなかったとしても、一日も経てば辺りを捜索出来る程度には自力で回復しているだろう。そうすれば、何処かに落ちているだろう回復系のマテリアを探し出して使えば良い。
ただひとつ不安要素があるとしたら、今のこの状態のジェネシスの前に違う新たなモンスターが現れた場合、全く為すすべが無いという事くらいだった。
ジェネシスは首だけを動かして辺りを見回す。
爽やかな風が吹き抜け、ジェネシスの髪とウエスタンリリーの紅い華を僅かに揺らして行った。
幾ら通常よりも巨大なグランドホーンだったとはいえ、かように大きなダメージを受けてしまうとは1stとしては失格かも知れない。だが、後悔は無かった。
ジェネシスには、この残り少ないウエスタンリリーの群生地を、自らの手で焦土と化してしまうような真似はどうしても出来なかった。したくなかった。
兎にも角にも、今は身体を休め回復する事が先決である。他のモンスターが現れた時は、その時考えれば良い。
ジェネシスは緋色の艶やかな百合を眺め安堵の気持ちに包まれながら、そっと瞼を閉じて眠りに就いた。
助けが来ても来なくても、自分が生き残る道はある。
考えようによっては、今の状態はかなり最悪だ。ただひたすら助けを待つか自力での回復を待つしか無い。が、追い詰められると逆に達観した心境になるらしい。飽くまでもジェネシスは平静だった。
夜半になって、ふと目が覚めて、未だ助けが来ていない現状を把握する。まだ酷く身体は痛むし、暗黒を使ってしまった影響も残っており、自分で判断する限りでも決して良い状態とは言えない。それでも、不思議と悲観した気持ちにはならなかった。
恐らく統括ラザードは既にこちらの異常に気が付いてはいるのだろう。しかし、DNAバーコード収集の為、ジェネシスはかなりの広範囲を不規則に移動した。携帯端末も壊れてしまった今、彼の現在の居場所を特定し発見するのは容易ではないだろう。
現状がどうあれ、今は充分な休息を摂る事が最優先である。ジェネシスが再び瞼を伏せ、やがてうとうとと眠りに就こうとした時、何かが自分に近付いてくる気配をぼんやりと感じた。
普通の人間であれば気が付きようもない、1stであるジェネシスだからこそ察する事が出来た気配。
何らかの生命力。それも単体であった。
これが複数の気配であれば、ラザードが手配してくれた捜索隊かと期待も出来るのだが、単体であるという事はつまりモンスターである可能性が高い。
ついに己れの命運も尽きたかと、ジェネシスは束の間眼を開け宙を仰ぐ。美しく瞬く満天の星空。これが自分にとって最期の光景になるのであろうか。
今更、じたばたと足掻いても仕方がない。いや、最後の悪あがきと言うべきか。再び目を閉じると、出来るだけ自分の気配をし殺す。運が良ければモンスターは自分に興味を示さずにいるかも知れない。上手くいけば何とか遣り過ごせる。僅かな可能性に賭けて、自らに近付いてくる生命体を心静かに待った。自分に気が付いた場合も想定して最低限の挙動で右手をレイピアに掛ける。

突如ふわりとした、暖かな感覚がジェネシスの身体を包んだ。と同時に、全身に走る鋭い痛みがすっと抜け一気に楽になる。
驚いて目を見開くと、長い銀の髪がさらりとジェネシスの身体に触れた。自分に覆い被さるような格好で、顔を覗き込んでいる。
「セフィ……ロス?」
想定外の人物の登場に、ジェネシスは寧ろ動揺した。先程の感覚は、恐らくフルケアかケアルガだろう。
「どうして? お前、ミッションは……」
「大体の片は付いていたからな。後はアンジールに任せてきた」
軽々しくあっさりと言う。
元から1st二人が配置されていた任務。難易度もそれなりに高かった筈だ。どちらかというとセフィロスが残ってアンジールがジェネシスの捜索に回る方が自然だろう。セフィロスの方が単独でミッションをこなせる可能性が高いし、ジェネシスの捜索は寧ろアンジールの方が向いている。
推測ではあるが、セフィロスの方で自分が行くとごり押ししたのではあるまいか。
ジェネシスは思わぬ所での恋人との対面が嬉しくもあり、同時に人の良い幼馴染みが少し気の毒に思え、曖昧な笑みを零した。
「よく俺の居場所が分かったな。さすが、神羅の英雄……か」
「ククッ。今更、何を……。俺は言った筈だ。お前がそのコートを着ている限り、何処に居ようと必ず見付け出す、と──
返すようにセフィロスも苦笑を洩らすと、自信に満ちた瞳でジェネシスを見据える。
そして、感慨深げに周囲を見渡すと更に言葉を紡いだ。
「アンジールに写真を見せて貰って、この紅い百合を見たいと思った。実物はどれ程、美しいのか、と。だが……」
セフィロスは、視線を再びジェネシスに落とすと躊躇いなく言い放った。
「あの群生するウエスタンリリーの中で、お前が一際美しい真紅の華だった」
セフィロスから貰った紅い革のコートが緋色のバーコードとなって、この広い高原の中からジェネシス自身を容易く判別せしめたのだ。
セフィロスの黒い革手袋がはめられたままの左手が、ジェネシスの頬に意味深く触れる。セフィロスの顔がゆっくり降りてきて、柔らかくキスを交わした。
固くて冷たかった何かがふんわりと緩やかに解けていくような甘い感覚。
セックスなどでは得られない満ち足りた感覚に、ジェネシスは自分とセフィロスの関係性が変わった事を感じていた。

神羅カンパニーに戻って、今回のミッションの事後処理をしているうちに、やがてアンジールも帰投した。
アンジールには話したい事がいっぱいあって、ジェネシスは親友が疲れているであろう事を分かっていながらも部屋を訪ねる。アンジールは特に気にした様子も無く、いつもの様に林檎の紅茶を煎れてくれた。
「お前が無事でとりあえずほっとした」と、アンジールは安堵の声を洩らす。ラザードからジェネシスからの連絡が途絶え、行方が分からなくなったと聞いた時は生きた心地がしなかった、と。
「アンジールは大袈裟だな。本気で俺が帰って来ないとは思ってなかった癖に」
「それはそうだが、それでもやはり……な。俺が任務を代わってなければ── とは、思ったさ」
「代わってくれと頼んだのは俺の方だ」
ジェネシスは怪訝な表情で返す。
「だが、元々俺が希望していた任務だ。下調べだって充分にしてたのに、準備不足なままのお前を行かせてしまった」
重い口調で言って溜め息を吐く。
「お前は相変わらず生真面目だな。もし準備不足が原因だとしたら、それは俺自身の責任だ」
毅然とした様子で言い切る幼馴染みを見て、アンジールはふと思い出す。
「そうだ。ウエスタンリリーは見れたか?」
「ああ、勿論……」
ジェネシスは軽く後ろ髪を掻き上げながら、急に眉を寄せ不機嫌そうな顔に変わった。
「そうだ、なんでセフィロスだったんだ?」
「何がだ?」
「俺を捜しに来たのが── だ。お前が来るべきだろう、相棒」
「最初は俺が行くつもりだったさ。何しろ幼馴染みの危機だ。だがな……」
アンジールは少し言い置いて苦笑混じりに続ける。
「セフィロスに『頼む』と言われたんだ。俺は少なくともあの神羅の英雄が『頼む』なんて言葉を発するのは初めて見た。だから、譲った」
「セフィロス……が?」
ジェネシスはカッと胸の奥が熱くなった。動悸が逸る。もしかしたら、嬉しいと感じているのかも知れない。
「で、いい加減仲直り出来たのか、お前達?」
「だ、だから、喧嘩なんかしてないって言ってるだろう!!」
顔を真っ赤にして否定する幼馴染みを不覚にもちょっと可愛いなどと感じてしまったのは、アンジールだけの秘密だ。

ジェネシスが自室に戻った後、程なくして来客があった。アンジールがまだ何か用事があったのかと、深く考えずにドアを開けると其処にはセフィロスが立っていた。
「どう……した?」
いつも通りに振る舞おうとするのだが、アンジールの話を聞いた所為か変に意識をしてしまう。僅かに頬が朱に染まり、言動がぎこちなくなる。
「これを……」
と差し出された、それはウエスタンリリーであった。
「この華を採取してない様に見えた── だから」
「ああ、そうだ。採取していない」
ジェネシスからふっと気合いが抜けて、和やかな表情になった。
「俺の代わりに採ってくれたのか?」
言いながらセフィロスの首に手を掛けて、少し踵を上げると、その頬に礼代わりのキスを捧げる。
「実は、植物は今回採取の対象外だったんだ」
遺伝子構造の違いから、植物は動物と同じCO1遺伝子をDNAバーコードとして利用する事は出来ない。植物のDNAバーコードライブラリが構築されるとしたら、それはまた別のプロジェクトとなる予定だ。
「だから、これは俺が貰っておく」
その手からウエスタンリリーを受け取ると、少し意気消沈した様子のセフィロスを打ち消すかのように柔らかい笑みを向ける。
「お前にプレゼントを貰うのは、これで二度目だな」
ジェネシスにはセフィロスと付き合うようになった後も、自分達の関係は結局のところ身体だけの関係だったあの頃の延長に過ぎないのではないかと云う不安がいつもあった。
だが、今は身体だけではない確かな絆を感じつつある。仮に植物のDNAバーコードを集めていたとしても、こんな些細なプレゼントさえが嬉しくて科学部問の連中になど手渡したくはない。
ジェネシスは改めてセフィロスの身体に身を寄せ、肩口に顔をうずめる。ふと面を上げてキスを強請ると、セフィロスが応えるように濃厚なキスを返す。と同時に両手で撫でるように背中やら腰周りやらをまさぐってきた。それだけでジェネシスの身体の奥の芯が熱くじんわりと疼いてくる。
「そう言えば、暫くしてなかったな」
苦笑混じりに呟いてセフィロスの顔色を窺う。ここのところ、ジェネシスがセフィロスを避けていた所為で禄に触れ合ってもいなかった。
── するか?」
プレゼントを貰い上機嫌になったジェネシスは、誘うような熱い視線で以ってセフィロスに流し目を送る。
「お前が、望むなら……」
英雄のあっさりとした返答に、ジェネシスは一瞬呆気に取られた。行き成り押し倒されるのも覚悟の上で言ったのに、自分の意向を聞いてくれるとは思いもしなかったのだ。
ジェネシスは抱きつくようにセフィロスの首元に己れの両手を廻すと、耳元近くで吐息混じりに囁く。
「俺は……したい。あんたが、欲しい」

ベッドに横たわり僅かに肌が触れ合うだけで、痺れるような快感が全身を巡る。きっと、こんな感覚はセフィロスとでなければ得られない。
久方ぶりに身体の中心を貫かれる痛みさえ嬉しくて、目端に涙が滲む。
身体の奥からセフィロスの熱が全身に伝わり、ジェネシスの身体をも熱く滾らせ深い陶酔を覚える。

『もう、俺から逃げるな』

かつてセフィロスに言われた言葉。だが、実際付き合い始めた後もジェネシスはセフィロスから逃げ回っていた。
しかし、どんなに逃げようとも、結局は敵わず捕われる。今もこうしてセフィロスの腕の中で翻弄されるのみだ。
「あぁっ、セフィ……ロ、ス」
相変わらず強制的に追い立てられるようなセックスではあったが、それがセフィロスの自分に対する執着のように感じられて最早不快ではなかった。
追い詰められ囚われる。
そんな関係に溺れている自分は、既にセフィロスから逃れられない運命にあるのだろう。

もっと溺れていたい。
もっと囚われていたい。

セフィロスの吐き出す欲望を体内で受け止めながら、白濁とした意識の中でこれが『愛している』という感情なのかと漠然と考える。
だけど、まだセフィロスには言ってやらない。

もっと溺れたいから。
もっと虜にして欲しいから。
もっと執着して欲しいから。
もっと追い掛けて、もっと追い詰めて、もっと……。

貪欲な自分に呆れながらも、ジェネシスはセフィロスの顔を両手で挟むと悪戯な笑みを浮かべ、深くて永いキスを強請った。
「フッ、これで『仲直り』だ」
「仲直り? 何の事だ」
「そのうち……教えてやる」
ベッドサイドの花瓶に生けたウエスタンリリーを嬉しそうに眺めながら、ジェネシスはくすくすと笑いを零した。

end
2009/7/1-4
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