Just one more… (前編)

夢かうつつか幻か。
夢であって欲しかったが、感じられる感触も熱も確かに現実でジェネシスは戸惑いの渦中にあった。
── どうして、こんなことに!?

◇◆◇

長期の遠征が終わってようやく懐かしいミッドガルへと帰ってきた。ジェネシスは例え故郷ではなくとも、ソルジャーとして久しく拠点としてきたミッドガルに対して郷愁にも似た感情を覚えることにやや感心していた。
それは、ミッドガルが単なる拠点・自宅ではなく戦友や親友が住まう場所でもあるからだろう。ミッドガルに戻ってくると一番に親友の顔が見たくなる。
気が付くと、帰投して真っ先にアンジールの部屋を訪ねていた。アンジールの部屋のドアをノックして、反応が返ってくる前にドアノブに手を掛ける。が、ドアノブは動かなかった。部屋の中からも音や気配が感じられない。不在なのだ。
ブリーフィングルームでアンジールのスケジュールも確認してくるべきだった。恐らく急な任務が入ったのだろう。予定通りならジェネシスが戻るころにはアンジールも待機中のはずだった。
こういう時、遠征中に連絡が取れないのは不便だな、と思う。もちろんソルジャークラス1stともなると極秘任務がほとんどなのだから、任務中には例え同僚であろうとも私用で連絡を取ることは出来ない。
こういった擦れ違いは日常茶飯事だ。さっくりと頭を切り替えて違うプランに変更するしかない。しかし、だ。ジェネシスは単にアンジールに会いたかった訳ではない。具体的に言うならば、甘えたかったのだ。一緒に飯でも食べて酒でも飲んで、そうしてゆったりとした時間を過ごしたかった。会えなかった分だけ、甘えて甘えて甘やかされたかった。
それが空振りとなってしまうと、心の置き所が難しい。
ジェネシスは自室に入り、シャワーを浴びて人心地つくと着替えて外出することにした。最初は馴染みの酒場にでも行こうかと考えたが、今はあまり人が多い場所に行きたい気分ではない。かと言って自室にひとりで居るのも嫌なのだ。我ながら面倒くさい奴だとジェネシスは心の中で苦笑する。
そう言えば、神羅ビルの上層階に一般人などは入れないVIP専用のバーランウジがあったような気がする。気がするというのは、ジェネシス自身も利用したことが無かったからだ。確かクラス1stなら入れたはず。暇つぶしとちょっとした冒険心も手伝って、そこに行ってみることにした。入ってみて雰囲気が合わなければ出ていけばいいし、恐らくクラス1stでも利用したことのある者はほぼいないであろうから、いい土産話にもなる。神羅ビルの上層階はお偉いさん専用エリアみたいなイメージがあるため、誰かに招待されて……など何らかの理由がない限りなんとなく近づき難いのだ。そこは、多分ソルジャーがただの神羅カンパニーの社員ではなく軍人としての側面が強いからだろう。どうしても一般社員とは距離を置きがちになる。

宿舎から再び神羅ビルへと戻って、エレベーターに乗る。仕事がないのに神羅ビルに来ること自体が珍しいので何となく変な感じだ。
確か61階のリフレッシュフロアの奥にバーラウンジがあったはずだ。61階で降りて勘で適当に歩いていくと、奥の方にあるラウンジへと辿り着いた。
入口で身分証などを確認するのだろうかと思っていたら、スタッフの方から「ソルジャークラス1stのジェネシス様ですね」と声を掛けられた。ジェネシス自身はもちろんこのバーラウンジに来るのは初めてである。この店のスタッフがクラス1stの名前と顔を全て記憶しているのか、或いは入口部分に顔認識システムが密かに設置されているのか。恐らく、後者であろう。おかげでスムーズに中へと案内される。
「セフィロス様もいらっしゃってますが、お約束などされていますか?」
と問われて、奥の席に銀髪の英雄がいることに気が付いた。
「いや、約束はしていないが少し話がしたいな」
周囲の者でここのラウンジに来る者などいないと決め付けていたが、なるほど英雄セフィロスであれば寧ろこのラウンジを使う機会も多いのだろう。ジェネシスも久しぶりの帰還のためセフィロスに会うのは数か月ぶりだ。スタッフはセフィロスに確認を取ってからジェネシスを隣の席に案内してくれた。
「久しぶりだな」
セフィロスの低く落ち着いた声がこのラウンジに似合っている。意外と常連なのかもしれない。
「そうだな。久しぶりに少し話をしたいと思ったんだが、いいか?」
「もちろん構わないが、珍しいな、こんな場所で会うとは──
了承を得たので、ジェネシスは隣に腰かけた。
「俺もこのラウンジには初めて来た。たまには気分転換を、と思ってな」
ウェイターが注文したカクテルを持ってきてくれたので、喉を湿らしながら会話を続ける。
「気分転換? どうせアンジールが居なくて暇を持て余してるんだろう」
いきなり核心を突かれて思わずセフィロスを睨みつける。多分、なぜそこまで俺達のスケジュールを把握しているのか、という疑問が顔に表れていたのだろう。セフィロスは続けた。
「アンジールが出発前にお前と行き違いになることを気にしていた」
「そう……か」
にわかに憤っていた気持ちも幼馴染みの気遣いを聞かされて、しょんぼりとへこんでしまう。連絡が取れないまま行き違いになってしまうことは仕事上どうしても出てくる。だが、わざわざセフィロスにその話をしたということは、遠まわしにジェネシスが暇そうにしていたら代わりに付き合って欲しいと伝えているも同然だ。そういう男なのだ。アンジールも、そしてセフィロスも。
自分がこのラウンジに来たのは全くの偶然であるが、これも神の悪戯か或いは気を利かせてくれたのか。そういうことなら、素直に甘えてセフィロスと空いた時間を過ごしてやろう。アンジールに対してはただの幼馴染み以上の情がある。彼の心遣いを無下には出来ない。セフィロスと飲むのも久しぶりなことだし。
そうして、ジェネシスは当初は『少し』のつもりであったが、そこそこ長い時間セフィロスと酒を酌み交わした。いささか飲み過ぎてしまったのかもしれない。途中から徐々に記憶が曖昧になっていく。
気が付いた時にはセフィロスに肩を担がれて、ふらふらの足でラウンジをあとにしたような気がする。記憶が分断していて、正確なところが思い出せない。思い出せる範囲の記憶もどこまでが本当の記憶なのか。恐らく、合間に酩酊状態で見た夢のような幻覚も混じっている。途絶した記憶を時間軸に沿って並べようとしても、抜けている部分が多すぎる。どうにもコマが足りない。
せめて現状だけでも把握したい。そう思うのだが、いま自身の身に起きている事象が既に信じ難い。悪酔いして変な夢でも見ているのだろうか。
── どうして、こんなことに!?
自分の身体の中心を熱くて硬いモノが貫いている。身動きが取れないながらもジェネシスの身体は、その律動により高められ火照っていく。
客観的に現在の状況を判断すると、ジェネシスは自分の部屋ではないベッドに仰向けに横たわり、その上から覆いかぶさるようにセフィロスの身体があった。
「はぁ……んっ」
自分でもびっくりするくらい甘い声が口許から零れる。抑止できない。
戸惑うジェネシスの頬をセフィロスの手が優しく撫でる。
「あっ…ああっ……」
太くて固いものに貫かれて、官能に身体を震わせる。どうしてこんなことになってしまったのかは分からないが、いま現在進行形で自分はセフィロスとセックスをしている。その事実に余計にジェネシスの身体は慄き震えた。
英雄セフィロスはジェネシスにとって幼い頃から憧れの人。大切な友人でありライバルでもあり、もっと親しくなりたい存在であると同時に、必要以上に踏み込んではいけない不可侵領域でもあるのだ。
言うなれば、聖域。
しかし、その聖域である英雄とセックスという俗物的な欲にまみれた行為をしている。セフィロスの性的行為なんて想像もしたくもないというのに、よりにもよってその相手が自分自身なのだ。
「は……あ、ぅん」
ジェネシスの葛藤とは裏腹に甘い熱を帯びた声は止まらない。セフィロスとの行為を心では受け入れられないくせに、身体はびくびくと震え歓喜に満ちあふれている。自身に内在する矛盾に 目眩を覚えた。
セフィロスが律動を繰り返しジェネシスの内壁を擦りあげる度に、身体の裡から官能の波が押し寄せてくる。これが現実だと認めたくないのに、身体は快楽を求め蠢くのだ。なんと滑稽な様であろう。と同時に悦びに身体を委ねてしまいたくて仕方がない。
思わず「もっと」とねだるかのように、セフィロスの背中に両手を廻し抱きついてしまう。セフィロスはそれに応えるかのよう、ジェネシスの片脚を持ち上げより深く内部に侵入してきた。熱くて固いモノがジェネシスの最奥を犯す。
「あぁっ! う……んん── っ」
もう限界が近そうだ。嬌声が悲鳴に近くなってくる。
「セフィロス……っ」
潤んだ碧玉で見つめると、セフィロスの顔が近づいてきた。
「か、顔……近っ──
制止する間もなく唇を塞がれてしまう。最奥を突かれながら、口内も暴かれ濃厚なキスを施される。舌を絡ませ、空いた手で乳首を摘まれ、奥の敏感な部分を刺激されると全身に電流が流れるがごとき衝撃が走った。
「ああぁっ── !!」
今までで一番大きな嬌声を上げると、ジェネシスは吐精した。その後は再び意識が曖昧となって暫し朦朧となる。
── どうして、こんなことに!?
意識が遠のくなか、ジェネシスは必死に経緯を思い出そうと記憶をさかのぼるが結局思い出せないまま。次に気が付いた時には、セフィロスに汚れた身体を拭かれていた。
即座に状況を理解して、ジェネシスは慌てて飛び起きる。この上、セフィロスに後始末まではさせられない。酔っていた頭もだいぶ醒めてきていた。
「いい── から!!  自分でやる」
そう言って、ティッシュをセフィロスから奪う。
「なんで、こんなことを……」
ジェネシスは自身の身体を拭いながら、無意識に呟いていた。
「アンジールに留守の間、お前のことを頼まれていたし……」
セフィロスは悪びれもせず答える。
「いや、だからってこういうのは── 違う、だろ?!」
掠れた声で訴えるジェネシスに、セフィロスはペットボトルの水を手渡す。ジェネシスが水を飲む様子を見ながら、少しセフィロスは困惑しているようだった。自分が考えていたジェネシスの反応とは違ったのだろう。自分はいったい何を間違ったのだろう── という表情だ。
「俺の思い違いだったら悪かった。が、お前は帰投したらアンジールとセックスするつもりじゃなかったのか?」
思わぬセフィロスの指摘に、ジェネシスは飲んでいた水を吹き出しそうになり、むせた。
「ま、待て。セフィロス……」
口許に手を当て逡巡する。言いたいことが一気に二つも三つも増えてしまった。言いたいことというより、聞きたいことか。
「まずはアンジールに何をどう、どこまで頼まれた?」
「アンジールが不在の間、ジェネシスが暇そうだったら相手をしてやって欲しいと」
幼馴染みの過保護さに思わず溜め息がもれる。
「それで? セックスの相手までしてやってくれと言われたのか?」
「そこまでは言われてない。だが──
セフィロスは言いにくそうに少し間を空けてから続けた。
「二人の関係はなんとなく知っていた。俺も興味があったし、酔っぱらって甘えてくるお前が可愛かったし……」
酔っぱらっていたとはいえ、セフィロスに甘えるという醜態をやらかしていたことを教えられ、ジェネシスは無言でうつむき悶絶する。
「すまなかった。お前たちが恋人なら、これは浮気……だよな」
自分の考えが足りなかったとばかりに長い睫毛を伏せるセフィロスに慌てて反論する。
「いや、確かにアンジールとはそういうこともしていたが、別に恋人じゃない」
自分達の関係性を上手く説明する言葉が見当たらなくて、ジェネシスは赤い髪を掻き上げる。
深刻そうな表情からほっとした顔に切り替わったセフィロスに、ジェネシスは容赦ない言葉を続けた。
「俺とアンジールの関係は別として、俺はあんたとこういう関係にはなりたくなかった」
「どうしてだ? 良く、なかったか?」
ジェネシスは俯いて、くすりと僅かな笑みをこぼす。自嘲のような、申し訳なさそうな遠慮がちな笑顔。
「良くなかったように見えたか?」
少なくともセフィロスの目からは充分に感じているように見えた。その通りに受け取っていいのかどうか、ジェネシスの言い方は曖昧でセフィロスは困惑した。
戸惑うセフィロスを尻目にジェネシスは脱ぎ散らかされた衣服を拾って、身なりを整えていく。
「 今夜のことは忘れてくれ。俺も、忘れるから──
身支度を終えたジェネシスは、一方的にそう言い残して去って行った。
ひとり残された英雄は逡巡する。
やはり、お互い酔っていた上のこととはいえ、セックスにまで及んでしまったのは間違いだったのだろうか。いくら酔っていたとしても好意のない相手に甘えたりはしないだろう。好かれているからこそ、あのように甘えてきたのだと、素直に嬉しかった。だからこそ、可愛らしく甘えられて、誘われていると思ったのに、ただの自信過剰な思い込みだったのだろうか。
でも、アンジールとは恋人ではないと言い切っていたし、セックスだってお互い楽しんだはずだ。ジェネシスだって満足しているように見えたのに──
納得がいかないまま、その晩セフィロ
スはひとり悶々と朝まで過ごす羽目になった。

◇◆◇

幾日かが過ぎ、時折ジェネシスと顔を合わせることはあったが、まるで何事もなかったかのように普通だった。
照れている様子も怒っている様子もない。本当にジェネシスはあの晩のことを無かったことにするつもりなのだ。
無論ジェネシスとアンジールが恋人であると言うならば、それは一方的にセフィロスが悪かったと思うし、ジェネシスの態度も納得できる。
だが、少しばかり強引ではあったかもしれないが、一応同意の上での行為のつもりだった 。しかも、アンジールと恋人ではないならいったいなんの支障があると言うのだろう。考えれば考えるほど納得がいかない。
何より、あの晩のジェネシスは実に魅惑的であった。セフィロスからしてみれば、誘ってきたのは寧ろジェネシスの方だと思うほどに── 。いや、あの晩のジェネシスは確実に誘っていた。自分に甘えていた。自分の首に両腕を回して妖艶な笑みを魅せたのだ。あれを誘っていると云わないのならば、それこそ理不尽だ。
一度ちゃんと話がしたい。どう足掻いても、一夜限りの関係で終わらせたくはなかった。

「ジェネシス、今度二人で飯でも食いに行かないか?」
たまたまミーティングで一緒になった時に思い切って誘ってみた。敢えて場所や時間は限定しない言い方を選んだ。
ジェネシスは少し思案顔を見せてから、応えた。
「今日はまだランチを摂っていないんだ。一緒に行くか?」
「ああ、もちろん! だが、あまり人目の多いところは……」
「分かってる」
そう言って笑みを見せるジェネシスは先日のことなど全く引きずっていないようだ。それはそれで少し寂しい。
二人は神羅ビルの外に出ると、ジェネシスは 先導するように路地裏に入っていく。一見、飲食店など無さそうな雑居ビルに入る。と、中は意外とお洒落で落ち着いた雰囲気のカフェに辿り着いた。
「ここでいいか?」
「 ああ、良さそうな店だ」
ジェネシスは多分この店の常連なのだろう。すぐに奥の方にある目立たない席へと案内された。
適当にパスタやサラダ、飲み物などを注文していく。サンガリアがふと目に止まったが、今は真面目な話をしたいのだ。アルコールは控えることにした。
食事を済ませ、お互いある程度落ち着いた頃合いをみてセフィロスは切り出す。
「この間のことを、ちゃんと謝りたい」
「別に謝るようなことなんか……」
「だが、あれから少し俺を避けているだろう?」
普通にしているつもりだったが、確かに避けるような態度はとっていた。自覚がある。ジェネシスは少し逡巡した。
「悪かった。この間のことは無かったことにして欲しいという気持ちは嘘じゃない。もっと、いつも通りに接するように気を付ける」
鹿爪らしい表情で応えるジェネシスの手を握って、セフィロスは改めて訴える。
「そうじゃない、ジェネシス── 俺は無かったことにしたくない。アンジールと付き合ってる訳じゃないなら、俺と付き合って欲しい」
「何を── 言ってるのか、分からない……」
狼狽と困惑を誤魔化すように笑みが漏れるが、動揺しか伝わってこない。
「お前は神羅の英雄なんだぞ?! 俺のことなんか忘れて……いや、突き放すべきだ」
本当にジェネシスにはセフィロスの意図が、気持ちがまるで伝わってないようだ。いったいどうしたらいいのか、どうすべきなのか。
やはり、初手が不味かったのだろうか。しかし、バーで飲んだ後ああいった流れになるとはセフィロス自身も考えていなかったのだ。そうなると事後の対応が良くなかったのか。
ぐるぐると混迷の渦に陥っていると、無情にもジェネシスはセフィロスの手を振り払い勘定だけを置いて店を出て行ってしまった。

数週間後、結局セフィロスとジェネシスの関係は停滞したまま、遠征からアンジールが帰投したとの報せが入った。
きっと、今度こそジェネシスはアンジールとゆっくりした時間を過ごしているのだろう。恐らくセックスも── 。今までは特に気にも留めていなかった。が、今回ばかりはずきりと胸が痛む。セックスの相手はやはりアンジールの方が良かったのだろうか。あの時何もしていなければ状況はもっと違ったのだろうか。後悔先に立たずとは、このことだ。
ひとり部屋に籠もっていても息が詰まる。
セフィロスは神羅ビル61階にあるラウンジへと向かった。バーに入って適当な席はないかと見渡す。ふと、赤い髪の同僚の横顔が見えた。物憂げな顔をしてうつむいている。今頃はアンジールと甘い一夜を過ごしているかと思っていたのに、何故こんな所にいるのか。誰か人を待っているのだろうか。こちらから声を掛けるのは不味いか。
じっと見ていたらさすがに気が付かれたらしい。顔を上げてこちらを見る。躊躇うように一度うつむいてから、再びこちらを見て目配せしてきた。そこでようやくセフィロスは、自分を待っていたのだと気が付いた。近づいて隣の席に座る。
「ここにいれば、会えるかと思って……」
少し照れくさそうな顔をしてジェネシスは語尾を濁す。
セフィロスにはジェネシスの胸中は推し量れないが、なんとなく彼なりの面倒くさい葛藤があるのだろうと感じた。セフィロスに用事があるなら直接部屋まで会いに来ればいい。積極的に会いたい訳ではないが、会う確率の高そうな場所── と考えてここに来たのだろう。
「……てっきり、アンジールと過ごしているのかと思ったが──
ひらたく言えばセフィロスは振られたのだ。わざわざジェネシスが自分に会おうとする理由が分からない。
「もちろんアンジールと過ごすつもりだったし、帰ってきたと聞いて真っ先に会いに行ったさ」
ジェネシスは一度グラスを口許に運んでから、溜め息をついた。
「会って……そして、お前との間にあったことを話した。アンジールには嘘や隠し事は通用しないからな。正直に話してしまった方がいいと思った」
本当のことを打ち明けたジェネシスに待っていたのは、アンジールの長い長い説教であった。その内容をそのままセフィロスに伝えられたら手っ取り早いのだが、要約して話すのさえ面倒くさいし何よりかったるい。
「それでアンジールにはなんと言われたんだ? 俺と縁を切れ……とでも?」
特に付き合っていた訳ではないとはいえ、アンジールとジェネシスの関係を知っていながらジェネシスに手を出したのだ。セフィロスは絶縁状を叩き付けられても文句は言えない。その程度の覚悟は出来ていた。
「……違う」
一度、グラスに口をつけてから、
「アンジールは俺の気持ちを知っているから……怒られた」
そこまで告げたジェネシスは頬を朱に染めていた。酔いの所為なのか、照れているのか。
とにかく、とても続きを言い難そうにしている。
「お前に素っ気ない態度を取ったのは悪かった。でも、俺もこのままでは── 。いや、とにかく今のこの状態は俺の本意ではないんだ」
なんとも要領を得ない言い方だ。セフィロスもグラスに口をつけた。なんとなく答えを性急に求めてはいけない予感がした。きっと彼と上手くやるには根気が必要なのだ。幼馴染みであるアンジールのような忍耐強さが。
沈黙が続いたが、敢えて口を挟まずにジェネシスの言葉を待つ。
「ただ、あの晩のことは、どうしても引っ掛かっている。お前に悪気が無かったことは分かってるし、俺から誘ったというなら、事実そうなんだろう。でも──
難しそうな顔で頭を抱える。
「本当に何も覚えていないんだ……肝心なことなのに、何も……」
そこまで告げて、ジェネシスは大きな嘆息を漏らした。
「いまさらだが……もう一度、お前の部屋に行ってもいいか?」
吐き出すように懇願する。
── あの晩をもう一度やり直したい。
何も覚えてないからちゃんとやり直したい

セフィロスのことを好きだという自覚はあった。ただし、それは限りなく憧れに近いものであって、自分の気持ちを伝えるつもりさえ無かった。ましてや、告白して友人以上の関係になるだとか、あまつさえ身体の関係を結ぶなどとは到底考えられない。
だからこそ自分の意識のないまま、気が付いたら挿入までされていたことはショックでしかなかった。
そういう関係になる気は毛頭なかった。だが、一度身体の関係を持ってしまったら、忘れられなくなった。好きだという想いが以前よりも増して、抑えきれない。
── もう一度、抱いて欲しい。
無かったはずの欲望が芽生えて、消し去ることが出来なくなった。
こんな都合のいい我侭を、セフィロスが承諾してくれるとは思えなかった。完全にダメ元での発言だった。
だから、セフィロスがジェネシスの手を握って笑みを湛えながら頷いてくれた時は、夢かと思った。この時、ようやくジェネシス自身も本当の意味で、セフィロスに心を開くことが出来たような気がする。

ラウンジを出てセフィロスの部屋へと向かう。
今度こそはちゃんと覚えていなくては──
気持ちを引き締めてセフィロスの部屋に入っていく。初めて入る部屋ではないのに、ひどく緊張した。
繋いだ手から焦りと戸惑いが伝わったのだろうか。セフィロスはジェネシスを優しく引き寄せるとハグをした。温かい体温に包まれる安心感と照れくささが混在する。どちらにしても嬉しい感情であった。ジェネシスもセフィロスの背中に両手を廻すと、どちらからともなく顔を寄せ、口付けを交わした。
これは事故でも気の迷いでもなくお互い望んでの行為なのだと確認するように、じっくりと舌を絡め、口唇を食み、唾液を飲み込む。
もうそれだけで、ジェネシスの目許は朱を帯び潤んでいる。あの晩に見せたような熱い視線に、セフィロスも一気に昂揚した。
このまま寝室に連れ込んでベッドに押し倒して── いや、それでは前回と同じだ。ジェネシスはあの晩の記憶がないことがショックみたいだから、もっとじっくりと時間を掛けて今度はきちんと納得がいく形でコトを進めるべきではないのか。
セフィロスは、あの晩の行為にジェネシスが飲み下せないような、消化不良に似た違和感を感じさせてしまった責任の一端は自分にもあるのではないのかと、やや反省していた。ジェネシスが酔っているのを理解していて同意があったも何もないだろう、と。
だが、いま眼の前にいるジェネシスはあの晩のように、否あの晩以上に魅力的で蠱惑的であった。あの晩、ジェネシスは酔っていた所為もあって理性を失っていたのだろうけれど、今のセフィロスも理性を保つのは難しいほどにジェネシスに魅惑されている。
熱烈なキスを終えて、改めてセフィロスはジェネシスを抱き締めた。
「悪いが、このままベッドに行ってもいいか?」
直球もいいところの科白で口説く。この状況では紳士的なリードなど、どうやっても無理だ。幸いにもジェネシスは戸惑いながらも、頷いてくれた。

to be continued
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