Just one more… (後編)

自分の気持ちが、決して戯れや好奇心などではないと分かって欲しいと願いながらも寝室へと招き入れる。ジェネシスは普段は強気で生意気な態度を取ることが多いが、不意にあどけなさを感じるほど純真な表情をみせる。ベッドに腰掛け見上げてくる、その顔がまさにそれだった。
あの晩とは全く態度が違う。やはり、あの時のジェネシスは酔い過ぎていたのだ。今日も飲んでいるとはいえ、酒量はかなり控えめなはず。今夜こそはジェネシスに悔いのない時間を過ごして欲しい。
力を抜いて欲しくて、そっと頬に手を添える。が、ジェネシスの表情は硬い。
「緊張してる── か?」
確認のために問うと、ジェネシスはふっと自嘲気味の笑みを浮かべた。
「おかしいよな、あんたと寝るのは初めてじゃないのに── 緊張なんて……」
「だが、前回のことはよく覚えてないんだろう? それに緊張してるのはお前だけじゃない」
心なしかジェネシスの頬に触れる、その左手は微かに震えている。
「まさか?! 冗談だろう?」
「冗談に見えるか? 自覚が足りなかったかも知れないがお前が好きなんだ、ジェネシス。緊張するに決まってる」
そう言って、セフィロスはゆっくりとジェネシスをベッドの上に押し倒した。今夜こそは、ゆっくり時間を掛けて口説きたい。
ジェネシスもいま改めてセフィロスに告白されて、ようやく先日『付き合って欲しい』と告げられたのも本気だったのだと理解した。そもそもセフィロスが自分を好きになるとか考えたこともなくて、ジェネシス自身も自覚が足りなかったと反省する。
「俺もあんたが好きだ、セフィロス。こんなに緊張するほどに──
覆いかぶさるセフィロスの銀髪に手を伸ばし、震える手で愛しげに梳いた。ここで完全にセフィロスのリミッターは外れてしまった。もう誰にも止められない。制御できない。
思わず噛み付くような強引なキスをする。時間を掛けるなんて無理だ。性急に求めるように服を脱がし、首筋に口付けを落とし、身体をまさぐる。
「あっ! んん── っ」
ジェネシスは碧い瞳を滲ませ、さらに求めるようセフィロスの手を掴み自分の胸元に導く。もっと触って欲しいと表情で訴えている。
導かれるままジェネシスの胸元をまさぐり、乳首を摘みあげると、びくりと震える。こうべを垂れて、もう片方の乳首を舐め上げ舌先で転がす。と、同時に残りの乳首を摘む。
「あっ、あっ……ん」
ひとつひとつの挙動に敏感に反応して、短い喘ぎ声が次々と紡がれていく。初めて抱いた時より意識がはっきりしている所為か反応が良い。
胸元から腹筋や脇腹へと愛撫の手を移動させていく。新しいところに触れる度にびくびくと細かな反応を示すのが、セフィロスの嗜虐心を煽る。征服欲を刺激する。
純粋な好きという気持ちの奥に潜む仄暗い欲望。大事にしたい慈しみたい想いと、凌辱し貶めたいというドロドロとした劣情がスラム街のように雑多に同居していた。
ついには下半身にまで侵略の手を伸ばし、ジェネシス自身にゆるゆると刺激を与えながら、後孔にも指を忍ばせる。軽く触れてやると羞恥ゆえか、びくりと震える。
恐らく、初めて抱いた時は酔いで意識が混濁して、相手がアンジールだと勘違いしていたのだろう。だが、今ははっきりと相手がセフィロスだと認識している。
指をローションで馴染ませるとゆるゆると後孔に差し入れていく。
「ん……くっ……!」
躊躇いながらも受け入れようと、身体の力を抜いて身を任せようとしてくれているのが分かる。ある程度、指が奥まで入ったところでくっと第一関節を折り曲げてやると、一段と身体が跳ねた。こうして自分の愛撫に反応して感じてくれていることが嬉しい。
折り曲げた指の先でさらに断続的な刺激を与えてやると、切なげに潤んだペールブルーの瞳で見詰めてくる。
「……セフィロス」
名を呼ぶ声にも艶があり、熱が籠もっている。続く指先の刺激に身悶え、身をよじらせ、息を荒くする。
「ジェネシス──
セフィロスは確認を求めるように名を呼び、ジェネシスが頷くのを認めてから、指を抜く。そうして、代わりに己れの屹立した雄を後孔にあてがい突き入れる。
記憶が朧げだったジェネシスだけではない。セフィロスも初めて身体を繋げるような深い高揚感を覚えた。
「あ、あ、あっ── !」
結合部が早くも熱くなって蕩けてしまいそうだった。想いを確かめ合った上での繋がりは麻薬のように刺激が強くて、二人は早くも溺れてしまう。繋がったばかりなのに、もう離れたくない。
快感を高めすぎないように、セフィロスはゆっくりとした抽挿を繰り返すが、それでももたらされる愉悦は想像を遥かに超えていた。吐精しないよう我慢することさえ難しい。それは、ジェネシスも同じようだった。ジェネシス自身の先からは堰き止められなかった白濁が、腰を突かれる度に少しずつ溢れていく。
「ん……もっと──
もっと強い刺激を与えて、早く絶頂に導いて欲しい。
もっとゆっくりとじっくりと、この甘い悦楽を長く味わいたい。
最早どちらを求めているのか。ジェネシスにも、セフィロスにも分からなかった。
緩慢でじっくりとした動きでありながらも、もたらされる強い官能。やがて先に我慢が利かなくなってきたのはセフィロスの方だった。ゆっくりとした抽挿では我慢できなくて、次第に律動が速くなる。おもむろにジェネシスの片足を抱え上げると、より深く激しい抽挿を試みる。
「ああっ── !」
身体がびくりと跳ねて、明らかにジェネシスの反応は変わった。身を捩り、シーツを握り締める。もう絶頂が近いのだろう。セフィロスの方も、抑えが利かなくなってきた。
終わりたくない。終わらせたくない。
互いに未練を残しながらも、結局は二人ともそれ以上は我慢出来ずに精を吐き出した。
吐き出した後も離れたくなくて、繋がったままキスを繰り返す。髪を撫でて、頬や首筋にもキスを落として、抱きしめる。
そうして、ようやく落ち着いた頃に見つめ合い再度口付けを交わした。
同じ枕に頭を乗せて、密着した状態のまま二人でベッドに横たわる。
「前に俺が言ったことを覚えているか?」
セフィロスが尋ねる。
「いつの話だ?」
心当たりがあることも、無いことも多すぎてよく分からない。
「付き合って欲しいと── 言っただろう? あれの返事を……ちゃんとした返事を聞いてない」
確かに、あの時はセフィロスの告白自体を本気で受け止めてなかった。だから、突き放すように拒絶して、真面目に考えることすらしてなかった。だが、もう、お互いに好きだという気持ちは確認したのだ。
「付き合ってくれるのか? 俺みたいな面倒なヤツと──
「当たり前だ。でなければ、こんなことは言わない。ただ……」
そう呟いて、言い濁す。
「ただ……?」
「やはり、俺の立場からすると、アンジールのことが……気になる」
いくら恋人ではないと言われても、肉体関係があったのは明白なのだ。ジェネシスと付き合うならば、余計にそこははっきりしておきたい。以前に付き合って欲しいと告げた時、素気ない態度を取られたのもアンジールとの関係を解消したくない、という理由だったのなら、やはり諦めるしかない。
「そうだな。お前と付き合うなら、アンジールとの関係もやめる。そこは、ちゃんとアンジールと話し合う」
思いの外、素直にジェネシスは応えてくれた。ようやく、まともにセフィロスに向き合う決意が固まったようだ。いろいろあったが、これで収まるべきところに収まったのだ。多分。
セフィロスを安心させるためか、ジェネシスは続けた。
「俺の気持ちをちゃんとセフィロスに伝えてこいと言ってくれたのはアンジールだから、その……アンジールは分かってくれると思う」
それはセフィロスにも容易に想像がついた。セフィロスとジェネシスが付き合うことになったと報告すれば、アンジールの性格ならば喜んで身を引くだろう。
それでも、セフィロスにはどうしても自分で確認したいことがあった。
「ジェネシス。このことは、俺からアンジールに話してもいいか?」

◇◆◇

後日。
たまたまセフィロスとアンジールは同じミッションになった。任地に着いてから、2ndや3rdが野営地を設置している間。二人で周囲の状況を偵察することとなった。
とは言っても、このミッションはモンスター討伐が目的であったから、1stの二人にはだいぶ気楽な任務であった。無論、1stが二人も配置されているのだから出現するモンスターはそれなりに強い。だが、ミッションの内容自体はどちらかというと2ndや3rdの訓練に近かった。
後輩達のために、どの辺りにどの程度のモンスターが出現しやすいのか。二人で予め把握しておくのだ。どうしても2nd達では倒せない、手に負えないようなモンスターが出現した時だけ二人が手助けしてやる。ほとんどサポート役だ。
「ミッションの合間に、少し話をしてもいいか?」
セフィロスはある程度、森の中に入ってからアンジールに尋ねた。
── ジェネシスのことか?」
セフィロスの方から話したいことと言ったら、それしか思い当たるものがなかったのだろう。アンジールは断定に近い感じで確認した。セフィロスが黙って頷くと、アンジールも心得た様子で頷き返した。
「ジェネシスと付き合うことになったんだろう? 良かったじゃないか」
「ジェネシスに聞いたのか?」
「いや、はっきりとは聞いてないが、様子を見ていれば分かる」
幼馴染みのアンジールからすれば、そうなのだろう。しかし、セフィロスは自分がジェネシスをこの腕に抱いたからこそ気が付いたことがあった。
「お前は、それでいいのか?」
「どうして、そんなことを聞くんだ? 上手くいってないのか?」
「いや、そうじゃない。だが──
セフィロスは躊躇いがちに訊く。
「お前は、ジェネシスのことが好き、なんだろう?」
すると、アンジールは「ははっ」と乾いた笑いを漏らし頭を掻く。
「いや、そういう訳じゃないんだが── 。まあ、身体の関係があったんだ。そう思うよな……」
なんと説明すれば上手く伝えられるのか分からなくて、アンジールは難しい顔をする。
「ジェネシスからも聞いていると思うが、俺達は別に恋人だった訳じゃないんだ」
「ジェネシスがなんと言おうと、関係ない。例え、誘われて仕方なく……だとしても、好きじゃなければ── 抱けないだろう?」
全くの赤の他人という訳ではない。幼馴染みで親友なのだ。それなりの情がなければ、抱けるはずがない。
「そりゃあ、好きか嫌いかっていう極端な話しなら、好きではあるが──
言葉を選んで返事をしようとするが、結局上手い答えは見つからなかった。
「でも、本当にセフィロスが気にするような仲じゃないんだ。それに──
「それに?」
「ジェネシスがお前との付き合いが嫌になったら、俺のところに戻ってくるだろうし、な」
にこやかに爽やかに、さらっとアンジールに返されて、セフィロスは絶句した。幼馴染みの余裕、いや、寧ろ大人の余裕というヤツか。セフィロスは負けた訳ではないのに敗北感を覚えた。
いくら付き合ってなかったと、恋人ではなかったと言われても油断ならない。別にアンジールが何もしなくても、セフィロスがジェネシスの機嫌を損ねたり嫌われるようなことをしてしまったら、もうアウトなのだ。
つまり、この先アンジールはどうあってもジェネシスに嫌われたりはしないという絶大な自信があるのだ。だから、ジェネシスが誰を好きになろうと誰と付き合おうと気にしていないのだ。だから、ジェネシスが誰かと付き合うことになっても他人事のように応援できるのだろう。
さすがにセフィロスには、そこまでの自信はない。普段なら尊大で自信家であるセフィロスであるが、それは飽くまで「英雄」として、だ。英雄としてなら、他に追従を許さない程の実力が伴っている。揺るがない自信の根底、礎がある。
しかし、ひとたび恋愛面ともなると話は別だ。ようやくジェネシスと念願かなってなんとか付き合うことにはなったが、いつ愛想を尽かされて振られても、いつ飽きられて捨てられてもおかしくはないのだ。
そんなモヤモヤを抱えつつ、セフィロスはテンション低めなまま、なんとかミッションを遂行した。早く帰投してジェネシスに会いたいような、一方で今すぐにはジェネシスと顔を合わせたくないような、複雑な気持ちだった。

ミッドガルに帰投して、まずはアンジールと二人、エレベーターでソルジャーフロアに降り立つ。
そのまま少し歩くとロビーに出る。
自然とロビーのソファに腰掛ける紅いコートを纏った朱髪の姿が見えた。俯いて携帯端末を操作しているようだ。不意に、こちらに気が付いたようにおもてを上げる。それから慌てて立ち上がると、嬉しそうに駆け寄ってきた。
「おかえり、アンジール」
迷わず黒髪の幼馴染みに抱きつくジェネシスを、セフィロスはただ隣で見ているしかなかった。
ずきりと胸が痛む。
さすがにセフィロスも動揺を覚えざるを得ない。顔に出さないように努めるのが精一杯であった。そして、必死に自分自身へと言い聞かせる。二人は幼馴染みなのだ。多分、今回が初めてのことではなく、ジェネシスがアンジールを出迎える時はこのようにハグするのが通例なのであろう。
しかし、幾ら頭では理解していても、今のこの心境で二人が親しげな様子でハグしているのを見せ付けられるのは、苦しいような切ないような。引き裂かれるような想いとは、このことか。
「セフィロス……」
幼馴染みとのハグを終え、ようやくジェネシスは英雄の方へと向き合う。表面上は落ち着いた様子を振る舞わなくてはいけない。冷静を努めてゆっくりとセフィロスは見返す。すると、ジェネシスはたちまち頬を朱に染め俯いてしまった。何か言いたげな様子でセフィロスを見てくるが、結局は言い淀み、最終的にはアンジールの後ろに隠れてしまう。アンジールは既に呆れ顔である。
「ジェネシス……。お前、セフィロスを出迎えに来たんだろう?」
そう、ジェネシスはわざわざアンジールを出迎えるためにソルジャーフロアに来た訳ではない。幼馴染みのことをよく知るアンジールにはお見通しだった。
思わぬアンジールの言葉にセフィロスも浮き立つ。観念したようにジェネシスはアンジールの後ろから出てきて、もう一度セフィロスの前に立った。
「セフィロス……おか、えり」
照れながらも、セフィロスの顔を見詰めて伝える。だが、それは一瞬のことで、また頬を染めて下を向いてしまう。
先程までは、アンジールをハグで出迎える様子にヤキモキしていたセフィロスであるが、今の自分に対峙した時のジェネシスの様子に早くもノックダウン寸前であった。アンジールに対する態度と違い過ぎる。可愛すぎるのだ。可愛すぎて反則でさえある。アンジールへ焼きもちなど抱いている場合ではない。
「アンジール、アレ……持って帰ってもいいか?」
「どうぞ、ご自由に……」
苦笑と共に肩を竦める。アンジールはもはや、まともに相手をするのも馬鹿馬鹿しいと云わんばかりの適当な態度を示す。
隣人の了承を得たセフィロスは、行き成りジェネシスの腰の辺りに抱きつくと、そのまま力任せに持ち上げて、あっさりと右肩に担いでしまった。ジェネシスは一瞬なにが起こったのか分からなかったらしい。
「セ、セフィロス!? 何をしてるんだ、お、降ろせっ!」
状況をどうにか理解して、慌てて抗議の声を上げる。
「ああ、セフィロス。ラザードには俺から報告をしておくから、お前は直帰してもいいぞ」
「分かった、アンジール。助かる!」
「ふざけるな、アンジール! 助けろ!」
喜色ばんだ様子で返事をするセフィロスと、青褪めた様子のジェネシス。好対照で実にお似合いだと思うアンジールは笑顔で手を振り、エレベーターに向かう二人を見送る。
「アンジール、貴様……っ!」
素直じゃない幼馴染みの恨み言など、アンジールには届かない。いや、届いてたまるか。いい加減収まるべきところに、さっさと収まって欲しいアンジールは決して引き止めなかった。
肩に担がれたままエレベーターに乗せられたジェネシスは、さすがに焦った。まさか、このまま宿舎まで担いで運ばれるのだろうか、と。
「セフィロス、いい加減に降ろせ!」
訴えたところでエレベーターが停まった。エントランスのある1階ロビーではない。恐らく居住フロアだ。相変わらずセフィロスはジェネシスを担いだまま居住フロアで降りると、迷いなく歩を進めた。そして、目指していた部屋に辿り着くとカードキーをかざして中へ入っていく。部屋の奥まで行ってから、ようやくそこにあるベッドの上にジェネシスを降ろした。
「こ、ここは何処なんだ?」
とりあえず宿舎まで公然の衆目の中、担いで連れて行かれる訳ではなくて安堵した。だが、連れて来られた場所が何処なのか分からない。
「俺の部屋だ」
こともなげにセフィロスは告げる。
式典セレモニーやらイベントやら、要人警護が続いたりすると神羅ビルから出られない時もある。そういう時はここに泊まる。一応、仕事用の部屋だな」
確かにセフィロスの部屋というには調度品もシンプルで、家具もテーブルと椅子とベッドなど必要最低限のものしかない。
セフィロスの任務内容を考慮すれば当然必要な設備なのであろうが、こういった部屋があるのは知らなかった。バーラウンジのこともそうだが、セフィロスの秘密をまた知れたようで少し嬉しい。いや、寧ろこの部屋があるからこそ、バーラウンジを利用することが多いのかもしれない。此処ならバーラウンジも近いのだから気軽だろう。
なんだか面映い気もするが、セフィロスとこれからも付き合っていくということは、セフィロスのプライベートに触れていくということなのだ。
降ろされたベッドの上で、身を起こしてベッドの端に腰掛けると、いろいろな想いが去来して感慨深げにセフィロスを見上げてしまう。そんなジェネシスにセフィロスは左手を伸ばすと、頬に触れ輪郭をなぞり顎に手を添えてからキスを交わした。いい加減慣れなくては── と思うのだが、セフィロスとのキスは未だに少し緊張する。ジェネシスの気持ちを知ってか知らずか、セフィロスが仕掛けてくるキスはより強く大胆に、深く求めるものへと発展していく。
「んっ……ふ──
思わず漏れた声が、セフィロスを更に煽ってしまったらしい。「早くひとつになりたい」と、耳許で囁かれる。
応えるようにセフィロスの首筋に、背中に腕を回す。抱き締める。この心臓の鼓動が伝わるだろうか。聞こえるだろうか。
考えるだけで、余計に鼓動が速くなる。
つい腕に込める力が強くなってしまう。セフィロスも強くジェネシスを抱き返すと、そのまま身体を傾けてジェネシスをベッドの上に横たえた。強引に連れてきてしまったが、少しは緊張がほどけたのだろうか。幾らかジェネシスの表情が柔らかくなったような気がする。
「そう言えば……俺を出迎えに来てくれたんだな」
アンジールがそう言うのならば間違いないのであろうが、改めて問うと照れくさそうに小さく首肯した。以前はアンジールの帰りを待っていたジェネシスが、いまや自分の帰りを待っていてくれるのだと思うとセフィロスは感慨深かった。こうして、実際にジェネシスが自分に傾いてくれているとなると、今度はまた別の欲が湧いて出る。人間の欲は尽きない。厄介なものだ。
ジェネシスをもっと自分に夢中にさせたい。独り占めにしたい。
好きなものに対して、自分はどこまで貪欲になるのだろう。どこまで強欲になれるのだろう。試してみたくもあり、深みに嵌まるのが怖くもある。
とりあえず第一歩として、目の前で横たわるジェネシスの首筋に吸い付いた。小さく漏れる嬌声に煽られて、たちまち歯止めが利かなくなる。
着衣を脱がせながら、首筋から肩に、肩から胸元へと愛撫の範囲を徐々に広げていく。時には身を固くし、時には身を震わせ、時にはあられもなく艶めいた声を上げる。一刻も早く身体を繋げたくなったセフィロスは、レザーパンツも脱がし、下着の上から核心に触れる。既に堅く屹立しており、もっと触って欲しいと云わんばかりに身を捩らせる。
焦らすように飽くまで下着の上からやわやわと撫でながら、もう片方の手でジェネシスの顎を捉えてキスをする。舌を絡めて、歯列をなぞり、上顎の内側を舐めあげる。刺激を与えるごとに、照れた表情がどんどん蕩けていくのが可愛い。
一方で下半身に這わせた腕は、下着の中にまで潜り込む。直接、堅くなった熱い核心を握り扱いてやる。先端には早くも先走りが滴っている。物足りないのだろう。濡れた先端部分を摘んで弄んでいると、甘えるような瞳で見つめて訴えてくる。
一度セフィロスはジェネシスから身を離すと、サイドテーブルからローションを持って戻ってきた。ジェネシスの下着を脱がせて、ローションを掌の上に取り出す。陰茎や玉の部分をもう一度弄んでから、慎重に後孔の方へと指を移動させる。軽く後孔を指先で掠めてやっただけで、ジェネシスの身体は大げさにびくりと跳ねた。それだけ期待しているのだろう。セフィロス自身も気持ちは逸る。と、同時に、初めての時はやはり強引過ぎただろうかという不安が不意にもたげてしまった。僅かな後悔が、どうしても自制を己れに強いてくる。出来るだけ丁寧に、決して性急にならないように、改めて自分自身に言い聞かせる。無理矢理したい訳じゃない。大事にしたいのだ。
精液混じりのローションが付いた指で後孔のあたりをなぞってから、ようやく指先を裡に侵入させていく。少しずつ奥へと忍び入る指が一本から二本に増やされても、待ち望んでいたかのように容易く呑み込んでいった。
やがて、深く侵入した指先がジェネシスの裡で一番敏感なところに触れる。
「ああ── っ」
声を上げながらも、セフィロスを見詰める瞳は熱を帯び潤んでいる。先程見つけたジェネシスの弱いところを、更に刺激してやると堅く目を瞑ってびくびくと身体を震わせた。ますます碧い瞳は潤み、セフィロスに縋り付こうとするのだが力が入らなくて、それもままならない。
力がある程度抜けたところを見計らって、セフィロスは自身の雄をジェネシスの後孔に押し当てる。ジェネシスの身体が一瞬強張るが、徐々に自身を裡へと沈めていく。最後まで挿入って、ようやくひとつに成れたと実感する。
「あっ、あっ、ん……ふっ──
腰を動かし、律動を与える度に可愛らしい嬌声が漏れる。もっと喘がせたくなる。もっと虐めたくなる。
陰茎をゆっくりと途中まで引き抜いてから、今度はゆっくりと挿入する。ゆっくり抜いてゆっくり挿れる。この長く時間を掛けた抽挿にジェネシスは悶え、身体を打ち震わせる。
「ああ……あっ……ぅ」
目は虚ろになり、漏れる嬌声もどんどん余裕を無くしていく。大き過ぎる官能の波を受け止め切れなくて困惑しているようであった。
「ジェネシス……好き、だ」
前傾姿勢になって口付けを施すと、より挿入も深くなる。同時に乳首や脇腹の辺りも摘んだり手を這わせていく。
「ああっ── !」
与えられる刺激が行き成り強くなる。聴覚で、触覚で、言葉で、脳髄の奥まで深く犯される。
「好き、セフィロス── 俺も……」
何もかも支配下に置かれることが、屈辱ではなく愉悦となる。身体の中枢が熱を持ち、昂ぶっていく。仰け反って、身悶えて、身を捩っても、快楽から逃れられない。
「イ、ク……もう……っ」
ジェネシスが達しようとするのに合わせて、セフィロスもより激しく腰を打ち付ける。
「あ、ああぁ── っ!」
二人は、ほぼ同時に果てた。身体の裡と外が互いの精液で塗れている。だが、その不様とさえ云える現況に優越感すら感じてしまう。自分がセフィロスに犯されて、所有された証のような── 背徳感にも似た余韻。
所有されたい訳でも支配されたい訳でもないのに、もう一度、何度でも味わいたくなる。理性が利かない。まるで、麻薬だ。
大き過ぎる官能の波に溺れて、ジェネシスが呆然と動けないでいると、セフィロスが自らティッシュを取りジェネシスの身体を拭ってくれた。
ここまでグズグズに蕩けるほど犯されて、まだ足りないと云ったら笑われるだろうか。呆れられるだろうか。両腕をセフィロスの顔まで伸ばして、引き寄せてキスをねだる。
キスを重ねるごとに、当初感じていた緊張も薄れていき大胆になる。ジェネシスの方からも顔を寄せて口付けを交わす。でも、まだ完全に緊張が和らいだ訳ではない。きっと、この心地良い緊張感は失われることはないのだ。セフィロスのことを好きでいる限り。
「どうしよう、セフィロス。まだ……離れたくない」
一度、少し身を離してから、困ったような顔をして躊躇っている。
「では、まだこうしていればいい──
離れかけた身体を引き寄せて、抱き締める。暖かい体温。逸る心音。
セフィロスだって気持ちは同じだ。まだ離したくない。離れたくない。
ただの身体だけの関係ではない。心も求めてる。気持ちが通じ合っている。だから、余計に離れがたい。繋がれば繋がる程に貪欲になる。
ずっと一緒にいたい。
今はまだ「好き」という気持ちに収まっている二人の心が、いつかそれだけでは収まらなくなって溢れ出すその日まで──
まだ、ほんの少しだけアンジールへの嫉妬心が心の奥に燻っている。そんな厄介な感情がかき消えてしまうほどに、お互いにもっと求めて与えて、埋め尽くしたい。
祈るような想いで、改めて強くジェネシスを抱き締める。
今はまだ言葉にしたくない気持ちが、無意識に口許からこぼれ落ちるその日まで──
ずっと、ずっと──

end
2024/2/13
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