Platinum (3)

如何にも凶悪そうな赤い眼光を爛々と輝かせ、獅子のようなたてがみを震わせている。いきり立ち低い咆哮を上げ、こちらを睨みつけてくる獰猛な肉食獣の眼。
しかし、鋭い眼光に怯むことなく群れの中に跳躍し、そのうちの一頭をセフィロスが難無く縦に両断して一撃で斃した。血に塗みれた正宗が余計にベヒーモス達の闘争心を煽る。
「セフィロス、今は奴らに手を出すな!」
「しかし、どうしろと云うんだ? 倒さずに、やり過ごすなんて不可能だろう」
慌てて制するジェネシスにセフィロスが問い掛ける。何か策でもあるというのか。
セフィロスは別格として、ベヒーモスは例えソルジャー・クラス1stであっても少々厄介な相手だ。英雄には及ばずともジェネシスやアンジールなら、1対1の状況で且つ上手く間合いを取れれば一撃で倒すこともそう難しくはない。
だが、現在の2ndや3rdを庇いながら、守りながらといった状況下で、加えて足場の悪い森の中。そうやすやすと倒せる相手ではないことは明白。しかも、彼等は群れを組んでいる。1対多の状況ともなれば苦戦は必至。
恐らくウータイ軍の狙いは、最初から神羅軍をこのベヒーモスの群れの中に追い込む事だったのだろう。そして、本来なら生息地ではないこの土地にベヒーモスがいること、常なら群れを組まないはずのベヒーモス達が群れを組んでいること── この二つの事実は、ある可能性を示唆していた。
すなわち、このベヒーモスの群れ自体がウータイ側が仕込んだもの。つまり、ウータイ軍がこの地を拠点として何らかの生体実験をしており、その成果がこのベヒーモスの群れであるという可能性。だから、此処の拠点はウータイ軍の中でもとりわけ極々秘密裡に運営されていたのではないか。
彼等の正体が改良を施されたベヒーモスならば、ますます下手に手を打つことは出来ない。1頭でさえも手を焼く相手。それが群れを成すことにより組織的な動きを取って襲い掛かってくるとなれば、もっと陰惨な光景が繰り広げられるだろう。ただでさえ彼等は正宗に付着した仲間の血に興奮して、よりいっそう凶暴性を帯びているのだ。そして、その血の匂いに引き寄せられるように、一匹、また一匹とじわじわと数が増えている。キリが無い。
まともに相手をしていたのでは、却って最悪の事態を招く。組織だった相手には、こちらも組織だった行動を──
「こちらには、2ndや3rd等がいる。今の彼等の実力では到底ベヒーモスどもとは渡り合えない。しかも、ベヒーモスは思ったより数が多い。恐らく俺達三人だけで、ベヒーモスを倒しまくったとしても追い付かない。下手をすれば、その隙に2ndや3rdに被害が出るだろう」
淡々とジェネシスが今の状況を説明する、その傍らで親友達は真剣に耳を傾けていた。
「俺に考えがある。ベヒーモス達が一箇所に集まるよう、追い込んでくれないか?」
ジェネシスの口調は飽くまで落ち着いていて、冷静だった。
「一箇所に集めて……一網打尽に出来る方法があるとでも?」
「全てのベヒーモスの息の根を絶てるかは、俺の魔力次第……だがな」
そう嘯いて笑ってみせるジェネシス。
「今は他に手立てが無い。お前の策に乗ろう、相棒!」
── 俺も、手を貸そう」
笑みを返しながら幼馴染みが勢い良くジェネシスの肩を叩いたあと、セフィロスも静かに参加表明を示す。幼馴染みのアンジールはともかくとして、普段単独行動を取りがちなセフィロスまで自分の作戦に積極的に加勢してくれるとは思わなくて、ジェネシスは密かに嬉しかった。
起伏の激しい山間の森の奥深く。峠沿いのルートは比較的なだらかな道が続くが、ルートから少しでも外れると切り立った崖に行く手を阻まれたり、滑落の危険があるほど急な斜面が現れたりする。不慣れな2ndや3rd達には森の中に分け入ることさえ困難を極めるだろう。よって彼等には一時後方待機を命じる。
実際、三人だけで複数頭のモンスターを追い込むというのは至難の技である。だが、普段よく一緒にトレーニングを行っている1st三人であれば、それほど難しい事ではない。寧ろ、何よりも誰よりも息が合っている彼等だからこそ成し得ることが出来る筈だ。今は、その可能性に賭けるのみ。
三人は一旦その場から散って、ベヒーモス達から距離を取ると徐々に彼等を囲い込むように間合いを詰めていく。当然打ち合わせもない。お互い言葉さえ交わさない。最小限のアイコンタクトだけで、互いの心を読み、ある一定方向にベヒーモスを誘導しつつ追い詰めていく。その様子は、さながら優秀な牧羊犬が羊を追い込むが如く。しかし、相手は大人しい羊ではなく凶獣ベヒーモス。三人の間には常に緊張の糸が張られていた。
ある程度、2ndや3rd達と離れたところで、ジェネシスの面持ちが変わる。その表情だけで、今が勝機と察したセフィロスとアンジールはほぼ同時に真後ろへ跳ぶように後退し、ベヒーモスの群れから一気に離れた。
ひとりベヒーモスの集団の前に立つジェネシスの手には、紫色のマテリアが嵌め込まれた金色のレイピアが輝いていた。
精巧な装飾が施された美しいレイピアをジェネシスは無言で神前に捧げるように頭上に翳す。

「燃え盛る業火、焼け跡さえ残らぬ非情。
舞い踊る焔、地獄の火炎、浄化の炎。
炎より生まれし炎の支配者。
地の底より這い上がりし炎獄の悪魔デーモンにして
清らかなる聖炎の精霊ジンよ。
全てを焼き尽くせ、イーフリート!!」

それは、神聖な奉納歌のように美しく清く高らかに詠い上げられ、森の中へと響き渡った。何処までも広く、清廉な気を纏いながら。
その献歌に呼応するように、空中に忽然と火の玉が出現する。
玉の中心にいた赤ん坊のように丸く小さく蹲った人形ひとがたは、みるみるうちに質量を拡大して巨大な魔人の本性を顕すと、空を覆い隠すほどの巨体に成長し、その身を起こすと両腕を掲げた。そうして、おもむろに拳を握り、二の腕に力を入れると、上腕二頭筋を誇らしげに隆起させる。その刹那。
同時に、周囲全てを巻き込み吹き上げるような爆炎が、辺り一体を席巻する。
ベヒーモスの弱点は火属性。
祝詞により威力を増し、通常の召喚より遥かに強力な力を備えたイーフリートが放つ煉獄の火炎はベヒーモス達を容赦なく焼き払った。
イーフリートの火炎をかろうじて免れた数匹のベヒーモスも、業炎にすっかりたじろいで尻尾を巻いて森の奥へと逃げていく。散り散りとなったベヒーモスは最早1st達の脅威ではない。追って討伐する必要さえなかった。
召喚術を終えたジェネシスは平静を装っていたものの、その場で一瞬ふらついてしまう。何しろ、ウータイ軍を足止めする為に、既に魔力をだいぶ消費していたのだ。加えての召喚術ですっかり魔力を使い果たしてしまったらしい。
よろめいたジェネシスを、何者かの腕が優しく受け止める。
「悪いな、相ぼ……」
力強い腕の感触に、ジェネシスはアンジールだと思って礼を言い掛ける。と、同時に自分を抱き止めてくれた相手を見上げて言葉を失った。
「……セフィロス」
それ以上に掛ける言葉が見付からない。礼の言葉さえ出てこない。それ程までに、現在の状況が、セフィロスの行動がジェネシスにとって想定外過ぎて、即座に消化出来ない。倒れた者を見捨てることはあっても手を貸すなど、どう考えても英雄の行動としては有り得なかった。今までならば──
完全なる不意打ちだったが、畢竟ジェネシスは本能的に悟ってしまったのだ。その時のセフィロスの行動が、気まぐれや偶然、思い付きなどではなく、明確な意図をもって為された行動だということを。
魔力を使い果たし、戦場では何の価値も無くなった一兵卒に等しい存在と成り果てた自分を、英雄であるセフィロスが自ら手を伸ばし支えてくれる。
その事実に、とうとうジェネシスの裡底に残留していた疑念という名の氷塊が融解する。
ああ、この男は嘘偽り無く真に俺を必要としてくれているのだ── と、ジェネシスはこの時初めて実感することが出来た。
長く暗い冬を越えて、ようやく暖かい春が訪れる。そんな仄かな喜びがジェネシスの胸中にひっそりと宿り、芽吹いたのだ。
十中八九セフィロスにとっては無意識に取ったであろう行動。それも倒れたジェネシスを支えるという極々何気ない行動が、ジェネシスの頑なだった心を揺り動かした。英雄ではなくひとりの人間として、ジェネシスはここで初めてセフィロスという人物をまともに意識するようになったと云えるだろう。
この時、視界の端には僅かに幼馴染みの姿があったような気がするが、魔力の消耗に加え英雄の思いがけない行動に意識が奪われ、半ば朦朧としていたジェネシスには深く気に留めることは出来なかった。ただ、いつもなら何かあった時には必ず傍まで来て確かめてくれる幼馴染みが、その時は遠くから見ているだけだったことは朧気な意識の中でも印象に残っている。
とにもかくにも、この時点から彼等の関係性はより一歩深く踏み込んだものとなったのだ。
ジェネシスのセフィロスに対する認識が変わったという事実は、ある意味どんなハードなミッションよりも大きな事件だった。
どうにかベヒーモス達を退けた神羅軍一行は、その後峠沿いのルートを順調に越え2nd、3rdともども大した損害もなく無事ミッドガルへと帰投した。


今回の任地がウータイ軍の隠し拠点であり、何らかのモンスター実験施設である可能性が発覚したことから、いずれ再び調査のためのミッションが組まれることは必定であろう。だが、それはまた別の話として、ミッションを終え戻ってきた1st達には休暇が与えられ、暫し平穏な日々が訪れた。
束の間であるかも知れないが、戦場からも、死からも離れて過ごす日々は長閑で貴重な安息であり憩いだった。穏やかな日常を過ごして、ようやくジェネシスにも自分のこと、そしてセフィロスのことを落ち着いて考える余裕が生まれてくる。
顔を合わせていない時でも気が付くとセフィロスの事を考えていて、斯くも自分の心はセフィロスに占拠されており、如何に彼の事で頭がいっぱいなのか── と自分でも呆れてしまう。かつて英雄に憧れていた幼い時分でさえも、ここまでセフィロスに心奪われてはいなかった筈だ。
ミッションを終え戻ってきてからというものジェネシス自身、自分の心境の変化を実感していた。以前は、どうしてもセフィロスに対して戸惑いや疑心、引け目、躊躇いといったような感情を払拭する事が出来なかった。
どれほど口付けを交わしても、どれほど身体を重ねても、どれほど心を通わせても、この見えない壁を取り払う事が出来ず焦燥感さえ感じていた。
きっと自分は、死を厭うようにセフィロスを畏れていたのだ。
死の象徴のようにセフィロスを捉え、遠ざけたい気持ちが心のどこかにあった。大多数の民間人と同じく、英雄に畏れ戦きながらも敬虔していたのだ。だが、今はセフィロスの事を思い描いただけで暖かいものが裡に流れていく。この感覚は幼馴染みのアンジールに対して抱くものに近い。
今なら、同じ空間に居ても緊張することなく対抗心に逸ることもなく共に同じ空気を味わえそうな気がする。
── セフィロスに逢いたい。
自然とそう思った。いつものようにセフィロスが来るのを待つのではなく、自発的に逢いに行きたい── と。
無意識にソファを立ち上がり、玄関へと向かうジェネシス。しかし、それを妨害するかのようにインターホンが鳴り響いた。
怪訝に思いながらもドアを開けてみる。
── セフィロス!?」
まるで想いが通じ合ったかのように目の前に立つ想い人にジェネシスは思わず抱き着いていた。
抱き着いたまま顔を上げ、見詰めると目と目が合う。その透明な翡翠に吸い込まれるように引き寄せられ、更には口付けまで交わしていた。
こんなふうにジェネシスの方からセフィロスに身を寄せキスを仕掛けたのは、この時が初めてだった。高まる想いに歯止めは利かない。ジェネシスは夢中になって何度もキスを繰り返す。
いつもいつも、どうやってセフィロスとの距離を縮めていいのか分からなかった。だが、いまは軽々と障壁を乗り越え身体を密着させている。それだけの力を持った衝動が、迸る情熱が、滾る恋慕がジェネシスの胸中に荒々しく渦巻いていた。
いや、もともと彼が抱えていた、そして抑え込んできた激情が一気に噴出したのだ。もう躊躇いや戸惑いはない。
「好きだ── セフィロス」
胸のうちに抱え込めなくなった想いが言葉となって溢れ出る。澄んだペールブルーに水分が加算されて透明度が増す。その瞳に映るのは、ただひとり。霞んだ視界の中でも決して輝きを失わない。比類なき銀の英雄。
一度離れて告白したあと、ジェネシスは再びセフィロスに口付けた。セフィロスの左手が、ジェネシスの赤毛を優しく撫でつけるよう移動しながら、その後頭部をしかと捉える。
長い長いキス。中断しようとしても離れることは決して許されない。
ジェネシス主導で始まったはずのそれは、いつしかセフィロス主導のものへと切り替わっていた。

左手で後頭部を固定されながら、腰にも右手を廻されて完全にセフィロスの手中に収まった。次の瞬間、ジェネシスの身体ごと室内に押し入られる。
その時点でようやくジェネシスは、今まで誰に見られるかも分からぬ玄関先で抱擁や口付けを交わしていた事に気が付いて、俄かに恥ずかしくなる。
「ん……セフィ、ロス」
室内に入った後も途絶えることなくキスは続行されていた。ジェネシスから仕掛けた筈なのに、一方的に蹂躙されるばかりの傲慢なキス。口内を舌で荒らされ歯列をなぞられ唾液を嚥下させられる。
思わず自分から抱き着いてキスを求めてしまったが、そもそもセフィロスが自室を訪ねてきた理由さえも分かっていない。逢いに来てくれた喜びに肝心なことを聞かなかった。今やセフィロス主導のものへと成り果てたキスを甘んじて受け入れるのみ。自分を求めてやって来たのだと、自惚れても良いのだろうか。信じていいのだろうか。それとも──
濃厚な口付けに脳髄の奥まで痺れて、それ以上深く思考を巡らせることは出来なかった。
もっと強く求められたい。
もっと深く交わりたい。
ジェネシスは己れの貪欲な希求心に呆れながらも、忠実だった。
「ん、セフィロス……ベッドに──
セフィロスの背中に両腕を廻し縋り付きながら、遠回しにセックスを求めた。少し前までは、英雄に身体を求められる事にさえ戸惑い畏れていたというのに、今は自分から誘っている。それどころか、早く抱いて欲しいとさえ願っている。
セフィロスもジェネシスの変化に気が付いたのだろうか。一旦、口付けを中断して翡翠の双眸でじっと見詰めてくる。翡翠の眼球に映るジェネシスは、今までセフィロスが見たことのない色めいた表情をしていた。
切なそうであり、物欲しげであり、どこか吹っ切れたような潔さと稟とした美しさ。それらが合わさり相乗して艶めかしい程の色気を醸し出している。
顔を見たいと、そう思っただけだった。ほんの少し様子を窺う事が出来れば、それで良かった。いきなりキスを求められたのは予想外だったが、キスくらいならば……と応じた。だが、今はどうしてもジェネシスを抱きたい。キスだけでは物足りない。もっと彼が欲しい。
例えジェネシスの方から誘われなくても、セフィロスの方から求めただろう。キスを交わしただけで、煽られ身体の中心が熱くなる。何より、今のジェネシスを目の前にして平静でいられる者など存在するだろうか。全身に艶めいた色香を漂わせ、甘い吐息を洩らし熱を含んだ碧玉で見詰めてくる。ベヒーモスなどより、ずっと凶悪だ。
何かに駆り立てられるようにセフィロスは有無を云わさずジェネシスの腕を掴むと、強引に寝室へと連れ込んだ。そのままベッドの上に縺れ込むと、即座に両腕を捉え組み敷く。
幾らベッドへの移動を望んだのがジェネシスの方だとしても、このような性急な形ではなく、もっと落ち着いて紳士のようにエスコートすべきだったと思う。だが、斯様に理性を奪われて自身を律する事など出来るだろうか。否。それは、エリート中のエリートであるはずの神羅の英雄にも不可能なことであった。
今まで、セフィロスの方が一方的に求めるばかりだったような気がする。時に心を許したように見えても、気紛れな猫のようなジェネシスは簡単にセフィロスへの警戒を解いてはくれなかった。確かに腕の中に捉えたと思ったのに、次の瞬間するりと抜け出してしまう。そのジェネシスをまた追い掛ける。そんなもどかしさを感じていた。でも、今はっきりとジェネシスに求められ、またセフィロスもジェネシスを求めている。明確な意思を持って、お互いがお互いを求めているのだ。
今までにも、身体を合わせた事も、心を通わせ合った事もあった。だが、どこかちぐはぐでぎくしゃくとしていた。どんなに情を交わし合っても拭いきれない戸惑いと猜疑心と警戒心と寂寥とが、二人の間に依然として燻っていたのだ。
しかし、今セフィロスの腕の中に収まるジェネシスは完全に身体の力を抜き、全てをセフィロスに預け切っている。じっとセフィロスを見上げる碧い瞳にはセフィロスしか映っていない。そして、セフィロスはそんなジェネシスにいっそうの愛おしさを感じずにはいられなかった。
「ん……好きだ。セフィロス──
「ああ、俺もだ」
恋人同士のように甘い睦言を交わしながら、お互いの服を脱がし合い愛撫する。
今までの事が嘘のようにジェネシスは素直にセフィロスを求めた。自ら両腕を伸ばし抱き着いて、互いの長い脚を絡ませる。
もうセフィロスから死臭を感じ取ることは出来なかった。ジェネシスにとってセフィロスは死に近い存在から、生を感じさせる存在へと変化したのだ。疑心や畏怖は、信頼や愛情へと転化する。いや、増幅したと云ってもいい。今まで、散々セフィロスに対して心を許せず無意識に距離をとってしまった贖罪として、ジェネシスは今度こそ彼に全てを曝け出だし、差し出した。
「ん、セフィロス……早く」
セフィロスが挿入しやすいように自ら脚を開き、招き入れる。じわじわとジェネシスの呼吸に合わせて、ゆっくりと侵入してくる熱い塊。少しずつ、少しずつ。
「あっ、ん……ふっ」
肉壁を徐々に押し広げられる感覚だけで感じてしまい、無意識に甘い声が洩れる。全部受け入れた暁には、どれ程の快楽が待っているのか。期待にジェネシスの胸は高鳴り、頬は朱を帯びた。
少しずつ侵入を果たしては引き出され、また時間を掛けて侵攻してくる。もう少し……と思ったところで、また引き出される。焦れったい。早く最奥への刺激が欲しい。
何度も焦らすような抽挿を繰り返しながら、とうとう一番深いところに辿り着く。その頃には、高まりきった愉悦は何倍にも増幅され甚大なものとなっており、ジェネシスの嬌声も一段と跳ね上がる。
「あ、あっ、ああーっ」
積み重ねられた官能が幾重にもなって、一気にジェネシスを飲み込み溺れさす。
以前なら、戸惑い拒否したであろう強すぎる刺激。だが、今はもっと受け入れたい。身体が官能に溶けても構わない。溺れそうになって逃げ惑ってもいい。もっと深くと身体が叫んでいる。もっとどうしようもないほどに切なく、もっと取り返しがつかなくなるほどに深刻に、もっと後戻り出来ないほどに奥底まで堕ちてセフィロスと繋がりたいのだ。
ひときわ怒張したセフィロスの雄がジェネシスの入り口をぴったりと満たし、一分の隙もなく収まっている。
「はっ……あっ……」
ジェネシスの艶声も切羽詰まったように、途切れ途切れになっていく。あまりにも大きすぎて受け入れ難いのだろうか。苦しそうに身体をくねらせる。だが、なまめかしいその姿に、セフィロスは一段といきり立った。
「あっ! ぅん……大きい」
苦しそうでありながらも、声は一段と色味を帯び、吐息はいっそう荒く乱れた。
感じているのだ。
そう思うと、より追い詰めたくて無意識に腰の動きが速くなる。もはや自分が感じるかどうかより、ジェネシスを絶頂に至らしめたいという気持ちが圧倒的に優勢だった。
「セフィロス、も……イきそう、だ……」
甘えるように、でも少し遠慮がちにセフィロスの背中に手を廻して縋り付いてくる。
「分かった。一緒に行こう」
セフィロスはジェネシスの赤毛を撫でながら、口端を上げて柔らかな笑顔で応える。
いつも、いつも、セフィロスと共に有りたくて必死に追い掛けて、追い縋ってきた。いつか隣に立ちたい、いつか肩を並べて歩きたい。そう憧れ続けたセフィロスに、共に行こうと誘われるのは、ジェネシスにとってまさに至福であった。
その言葉だけで、心酔してしまったジェネシスは一気に最高潮にまで達してしまう。それは、どんな快楽よりも深く長い余韻をジェネシスに残した。


本当の意味で深く結ばれた二人には、多少のことでは揺らがない心の余裕と信頼関係が築かれていた。そんな二人の戦場に於ける連携プレイは以前以上に洗練されたものとなった。
ジェネシスが炎の魔法で追い詰めた敵を、的確にセフィロスが正宗で仕留める。あるいはセフィロスが正宗で牽制し追い込んだ敵を、ジェネシスが魔法陣でもって一掃する。
敵にとっては堪ったものではない。が、こうして二人で連携プレイを取ることによって、『死』への悔恨を抱える負担が低くなっていたことも確かだった。そう感じているのが、ジェネシスだけではなくセフィロスもまた同じであることを願ってやまない。セフィロスにとって、自分の存在が支えとなる瞬間があるのならば、まさに至高の極みだ。
もっと、高みにのし上がりたい。
真の意味で、英雄の隣に立つために──
野望を抱えるジェネシスには、疾うに『死』を引きずる余裕など無かった。
セフィロスと二人、散々前線で暴れて拠点に戻った、その時。拠点で出迎えてくれたのは幼馴染みのアンジール。なかば呆れたような苦笑を交えつつ、それでも親友二人を労い、讃え、暖かく受け入れてくれる。
その優しく出迎えてくれる笑顔に、ジェネシスはアンジールに伝えなければならないと、決意した。もしかしたら、相棒への裏切りとも取られかねない真実を──
敗残兵の掃討はあらかた終わったのだろう。拠点に2ndや3rd等も続々と帰投してくる。人が増えすぎないうちに、ジェネシスはアンジールに声を掛けた。
「アンジール、少し話がしたいんだが……いいか?」
「ああ、分かった。向こうへ行こう」
アンジールは何も云わなくとも、ジェネシスが二人きりで話したいのだと察してくれたらしい。森の奥まった方へと場所を変えて、移動した。
ほんの少しだけ木々の合間から陽の光りが零れ落ち、深緑をまだらに彩っている。
「アンジール。俺は……ずっと、お前に謝らなくてはと── 思ってた」
慎重にゆっくりとジェネシスが切り出す。
「謝る? 何を謝るんだ? この間、酔って観葉植物をひっくり返したことか。それとも、勝手に俺の冷蔵庫から貴重な食材を持ち出したことか」
「アンジール!」
揶揄うアンジールをジェネシスは重い口調で制した。
「違う。その……それも悪かったが、違うんだ」
珍しくしおらしい態度のジェネシスに、アンジールも悪ふざけが過ぎたかと反省して肩を竦めると、おとなしく耳を傾けた。
「俺はずっと、アンジール。お前だけが戦場で背中を預けられる唯一の親友ともと思っていた。でも……」
あの時。凶悪なベヒーモスの群れをイーフリートを召喚して一掃した、あの時。自分の背中を支えてくれたのは、他でもないセフィロスだった。それまで、ジェネシスはどこかセフィロスに遠慮して戦っていた。とにかく神羅の英雄である彼の邪魔をしてはいけないと変に気を遣い、気負っていた。だが、あの瞬間解ったのだ。もっとセフィロスに頼っていいのだと、セフィロスに背中を任せてもいいのだと、いい意味で吹っ切ることが出来た。
「でも、今はセフィロスも同じ……お前同様掛け替えのない戦友なんだ」
少し翳りのある表情で俯いて、声のトーンを落とす。
「だから、すまない。アンジール、俺は……」
「何故、謝る必要があるんだ。背中を預けられる親友が二人も出来て良かったじゃないか。これからは、お前が俺の見えないところで無茶しても安心出来るな」
「アンジール」
無論、完全に素直に受け入れている訳ではない。僅かながら嫉妬もある。それもあって先程、つい意地悪してしまったのだが。あの気難しい幼馴染みが、自分以外の誰かを頼りにする日が来るなんて考えたことも無かったのだ。
だが、木漏れ日の中懸命にセフィロスについて語る幼馴染みは、陽の光りを全身に浴びプラチナに輝いていた。まるで太陽光を受けて輝く月のように、清廉で貴く純真だった。
自分では、こんな風にジェネシスを成長させることなど出来なかっただろう。プラチナを纏う幼馴染みを見て、アンジールは斯くもセフィロスとジェネシスは似ているのだと気付かされた。相手がかの英雄であるのならば仕方がない。悔しいが、きっと二人はこれからも互いに切磋琢磨し、磨き合っていくのだろう。より高みへと駆け上がる為に。
「だがな、アンジール。俺が、相棒と呼ぶのはこれからもお前だけだ。覚悟しとけよ!」
アンジールは、すっかり自分だけ蚊帳の外に置かれたような疎外感を感じていたのだが、ジェネシスの言葉にはっとする。
以前、ジェネシスがセフィロスを迎えに行ってから、ジェネシスがアンジールに対して全てを話してくれなくなった事を薄々は感じていた。何かを自分に隠し、急激に親密になっていく様子の二人を見るにつけ自分ひとり取り残されたような、うっすらとした寂寥感を覚えた。
前回のミッションで、ジェネシスが召喚魔法で魔力を使い果たし倒れそうになった時。その彼を自然に支えるセフィロスを見て、もう自分の支えは要らないのだと自棄にさえなった。ジェネシスにとって長年の憧れだった英雄と直に知り合い、信頼し合い友情を育んだのなら、ただの幼馴染みで腐れ縁で付き合い続けただけの自分など最早必要とされないのではと、勝手に危惧していた。
セフィロスとジェネシスの距離が近くなった所為で、相対的にジェネシスが遠くなったように感じてしまった。だが、決して自分とジェネシスの距離が離れてしまった訳ではない。惑星とそれを巡る衛星のように一定の距離を保っている。
そう、これからは二人だけではなく三人でお互いを高め合っていけばいいのだ。安堵して柔らかな笑みを形作ると、アンジールもまた自らまばゆいプラチナの中へと足を踏み入れていった。

end
2013/2/25-11/14
◀back