Platinum (2)
セフィロスはそっとジェネシスの朱髪を梳いて撫で、優しくキスを落としていく。最初は髪の上から、次いで額に、頬に、顎に、首筋に。頸動脈を辿って鎖骨に向かいながら、両手はゆっくりとバスローブをはだけさせていく。
そういえば、初めて抱かれた時もこうだった。ジェネシスはすっかり記憶の外に追いやってしまっていた最初の晩の事を思い起こす。セックスの最中、セフィロスはこれがかの神羅の英雄かと、これがあの夥しい死体の中心に佇んでいた白銀のソルジャーかと疑いたくなるほどに、ひたすら優しく包み込み壊れ物のように大事に扱ってくれた。
その為、却ってセフィロスと初めてベッドを共にしたあの晩の出来事が、ジェネシスには現実味を感じる事ができず蜃気楼のような曖昧で朧気な印象しか残らなかったのかも知れない。
バスローブを剥ぎ取りながら、セフィロスの愛撫はどんどん下降していき、腹筋を越え更に臍の下にまで移行する。
「ああっ── !!」
既に勃ち上がっていた陰茎にまで舌を這わされて、思わず声を上げてしまう。根元から先端へと舐め上げると先端を濡らす先走りを舐め取るように軽く吸い付いてくる。
「ん……んっ、はぁ……あっ」
喘ぐ事しか出来ず身悶えするジェネシスに構わず、セフィロスは愛撫の手を後孔にまで伸ばす。周囲の肉を揉むようにして優しく解しながら指先を侵入させていく。前回、些少ではあるがジェネシスが出血してしまった事を考慮してくれたのだろう。どうやら今回は予めローションを用意していたらしく、ぬるりとした冷たい感触にジェネシスは一瞬びくりと身を震わせる。
ローションの助けもあり、思いの外容易くセフィロスの指はジェネシスの奥深くまで入り込んでいく。本数を増やされても殆ど苦痛を感じる事はなく、ゆえに与えられる快楽はいや増すばかりだった。
ある程度解れてきたところでセフィロスは口淫をやめ、身を起こすとジェネシスに覆い被さるよう身体を沿わせる。ひとつ口付けをして、体勢を直すと己れの雄をジェネシスの後孔にあてがい少しずつ慎重に挿入していく。
「はぁ……ああっ! くっ……ふ」
充分に解された後とはいえ、やはり指などとは比べものにならない。圧倒的な質量と硬度による圧迫感の前に、ジェネシスもただ快感を享受しているだけではいられなくなった。喘ぎ声の合間に苦悶を押し殺したような吐息が交じる。セフィロスはジェネシスの様子を窺いつつ抽挿を緩やかなものへと切り替えていく。しかし、決してその動きを止める事はない。控えめな律動ながら、確実にしっかりとジェネシスの内部、奥深くへと侵蝕を進行させていく。
律動が深くなるにつれ、内壁が擦られる面積も増え、ジェネシスが受ける快感も次第に大きくなる。じわじわと押し寄せる愉悦の波が苦しいだけの圧迫感を凌駕するのは時間の問題だ。苦鳴交じりの喘ぎが、享受しきれなかった快感を逃がす為の色を含んだ嬌声へと徐々に変化していく。
「あっ……あ、あん……セフィ、ロス……んン」
組み敷かれたジェネシスの洩らす声が、完全に媚びた甘ったるい艶声になった頃。セフィロスはジェネシスと繋がったまま、上半身を前傾してジェネシスにキスを求める。ジェネシスも応えるようにセフィロスを欲し、彼の首に両手を回して引き寄せた。繋がったまま行われる深い深いキス。全身でお互いがお互いの事を求め合っている。
より深い繋がりとより深い口付けを求めて、ジェネシスが背中へと回す手に一段と力を込めると、その勢いを逆に利用されて引き起こされた。そのままセフィロスは横たわり、今度はジェネシスが上に── つまり、騎乗位の体勢となる。
「あっ……くぅ」
刹那油断して、自重を掛けると一気に最奥まで到達されてしまい、思わず呻き声が洩れる。一段と深まった繋がりに驚きと歓喜と困惑と享楽とが綯い交ぜとなり、暫し動けなくなった。どうにかセフィロスの胸元に両腕をついて身体の安定を図る。だが、身体を浮かして負荷を減らそうとした瞬間に下から突き上げられ、前方へとつんのめってしまう。勢いセフィロスの身体に覆い被さるように倒れて、顔と顔が近くなる。そのままキスをして、舌を絡ませ合って、落ち着いてから再び体勢を整える。
「くっ!」
やはり自重により結合が深くなり過ぎて苦しい。息をゆっくりと吐き出しながら、慎重に腰を上下させていく。だが、慣れてくると更なる刺激と悦愉を求めて、自然と腰の動きが速くなった。人間というものは実に貪欲である。先程までは苦痛が大きかった最奥への刺激も快楽の割合が大きくなってくると、今度はジェネシス自ら積極的に自重を掛け腰を振り、最奥への刺激を望んだ。
ジェネシスの享受する快感が大きくなるのに比例して、腸壁の締め付けも次第に強くなっていく。きつく締め上げられセフィロスの雄も一段と怒張し硬度を増す。そして、更にジェネシスの快感も深くなる。無限ループだ。
「あっ、あっ! セフィ……ロス! もう……いっ!!」
快感が増幅する一方の状況でたちまちジェネシスは臨界点にまで押し上げられた。もう我慢出来ない。彼は、とうとうセフィロスの胸元に倒れ込みながら果ててしまった。ジェネシスの限界が近いことを悟っていたセフィロスもタイミングを合わせて同時に達する。吐き出された精液がジェネシスの体内を熱く浸蝕していく。
もっと、もっと長く。
もっと、もっと深く。
情事が終わった後もお互いを強く求める二人は、すぐに身体を分かつ事が出来ず暫くの間繋がったままでいた。
そのまま、どうやら少し眠ってしまったらしい。気が付くとジェネシスはセフィロスの両腕の中に包まれていた。
── 暖かい。
かつてセフィロスに抱き締められた時には冷たい印象しか抱かなかったのに、そう感じた。
「どうして、俺なんだ?」
今まで、気になりつつも問う事が出来なかった質問がぽろりと口を衝いて出る。云ってしまってから、取り消したい気持ちになったが宙に放ってしまった言葉はもう回収出来ない。
「お前が暖かかったから」
意外にも、すんなり返事が返ってきて思わずセフィロスの顔をじっと見詰める。その答えは、先程ジェネシスがセフィロスに抱いた気持ちと同じだったことに驚きを感じた。
セフィロスは淡々と続ける。
「俺の周りには『死』しかなかった── 」
自らの左手を目の前に翳し、憂うように眺める。この手でいったい幾人の命を奪っただろう。
セフィロスの通った道筋に脈々と築かれていく死体の山々。いつしか纏わり付くようになった死の臭い。人であって人でないものに変貌していく自分。
「セフィロス……お前でも、死が怖いのか?」
固唾を呑んで聞いていたジェネシスは、恐る恐る尋ねる。
戦場に出る度に大量に積み重なる死体の山。出来るだけ原形の残らない形にしたくてジェネシスは炎系の魔法を多用していた。出来る限り、死体を焼き払えるように── 。
その蓄積されていく『死』に英雄セフィロスも畏れを抱いていたというのだろうか。
「怖い── か。怖いと感じる感覚さえ麻痺していた。敢えて『怖い』と云うならば、死への畏れさえ感じなくなった自分自身かも知れない」
ずきりと、胸が痛くなる。
恐れるものなど何もない、いや寧ろ周囲に畏れられ敵のみならず味方にさえも忌避されてきたセフィロスが、自分と同じ懊悩を抱えていたことを知り嬉しく感じた。
だが、同時にジェネシス自身もまた大多数の人間と等しくセフィロスの事をひとりの人間ではなく『神羅の英雄』として見ていた事に気付かされて後ろめたくなったのだ。親友として、何故ひとりの人間として見てやれなかったのか。
申し訳なさに苛まれて俯くジェネシスを、セフィロスは優しく両腕で囲い込むように抱き締める。
「あの森の中、気が付けば周囲は死体の山が累々と築かれていた。だが、俺は何も感じることが出来なかった。急速に身体が冷えて……自分の体温さえも感じられなくなった。自分でも異常だと感じた。その時、お前が目の前に現れたんだ」
ジェネシスの内心の後悔や葛藤など露知らず、セフィロスの口調は飽くまで穏やかで落ち着いていた。極力感情を込めないようにしているようだった。
「俺は── 神羅の英雄である俺は、お前に縋った。抱き締めたお前の体温は温かくて、失われた筈の俺の感覚がみるみる甦っていった」
云いながらもジェネシスを抱き締めている両腕に力を込めて、
「もっと、お前を抱きたいと、お前の熱を欲しいと思った。だから、お前を……誘った」
続けるセフィロスは、とても普段の英雄然とした姿からは想像がつかないほど余裕を無くしている。
「こんな俺に……幻滅したか?」
セフィロスの問い掛けにジェネシスは慌ててかぶりを振った。幻滅なんてするはずが無い。そして、何よりもセフィロスが自分の弱い部分をジェネシスに曝け出してくれた── その事実がただただ嬉しかった。
そのまま結局セフィロスは、ジェネシスを囲う腕を解どいてくれなくて、体温の温かさもありジェネシスはいつしか彼の腕の中で、うとうとと眠りに就いてしまった。暖かな体温、穏やかな睡臥、密やかな喜び。
しかし、ひとつだけ気になることがあった。素直に喜べない事が。
つまり、それはあの場に居たソルジャーがジェネシスではなくても、生きている人間なら誰でも良かったのではないか── という疑問。あの時、たまたまあの場に居たのが自分だったというだけで、特別自分がセフィロスに必要とされている訳ではないのではないか、と。
ひねくれ者のジェネシスはセフィロスの言葉を全て都合の良いようには受け止められなかった。最初から多くを期待しすぎない方が良い。あとで違うと分かった時に受けるダメージが少ないから。英雄に何度も挑んでは返り討ちにあっていたジェネシスは、過剰に期待しない事にも、また慣れていたのだった。
◇◆◇
さして状況や関係性に変化の無いまま、幾許かの時が緩やかに流れゆく。
そんな中、またしてもセフィロス、ジェネシス、アンジールの1st三人と加えて2ndや3rdも随行するミッションがあった。これは先達てのミッションとは違い大規模という訳ではなく、2ndや3rdの訓練に重点がおかれた難易度の軽いものであった。1st三人は補佐的な意味合いでの随伴だった為、他の1stは参加していない。
これは特別な訓練であり、当然ながら参加者は2ndや3rdの中から特に優秀な者達が選ばれていた。現状、2ndや3rdランクのソルジャーは1stに昇格するまで実戦に投入される機会自体がそもそも少ない。よって、例え将来有望とはいえ能力値分を差し引いても経験値の低い者ばかり。それ故1st三人が補佐役として必要だったのだ。
前回のミッションよりも比較的近いうちに1st三人が集う機会に恵まれて、アンジールは内心ほっとしていた。前回のミッション以降、ジェネシスやセフィロスの様子が何か変わってしまったような── 関係性が変わったというのだろうか。違和感、いや疎外感かも知れない。とにかく、なにがしかの変化を覚えていた為、こうして三人でミッションに参加する事で多少なりとも関係性を修復出来れば……と、彼等の友人としての小さな思惑があった。
実のところセフィロスだけの話であれば、これほど気掛かりではなかったのだが、自分がよく知る幼馴染みのジェネシスでさえ何かを隠している風で、ますますアンジールを不安に駆り立てた。長年共に過ごしてきてジェネシスの心の裡がこんなにも掴めない、読み取る事が出来ない。そんな状況はアンジールにとって初めての事だったのだ。それだけに困惑が強い。
しかし、一方で単なる過干渉なのでは── という葛藤もあった。既にお互いクラス1stとして神羅カンパニーである程度の地位を確立し認められているという、この状況下で幼馴染みの動向を何もかも把握していないと気が済まない── というのも、いささか過保護が過ぎるのではないか、と。今回のミッションを通して、自分達三人の付き合い、距離感といった事案に関して適度な妥協点を見出だし、案配よく折り合いを付ける時期なのかも知れない。
今のところ、ミッションに従事しているセフィロスやジェネシスの様子を見るにつけ、具体的に分かるほどの変化は見受けられなかった。だが、二人とも本音は表に出さない傾向にある為、暫し観察が必要であろう。
行軍の合間に、アンジールはついつい親友達の事ばかりへ意識が行ってしまう。今回は2ndや3rdの訓練に補佐として同行するだけ、という意味合いが強いためミッションに関してはかなり自分の能力をセーブしている、という側面もある。出来るだけ2ndや3rd主体でミッションを進行させ、飽くまで1st達は裏方に徹する。それが自分達の役割だから、どうしてもミッションへの比重を軽くせざるを得ない。その弊害として、どうしても親友達の動向が気に掛かる。
つまり、今回のミッションは1st達にとって、のんびりと気楽な気持ちで参加出来るミッションだった。2ndや3rdには厳しい訓練であろうが1st達にとってはピクニックのようなものだ。
だが、ミッションで予定していたルートを各ポイントをチェックしながら行軍していると、予期せぬ非常事態が突如として巻き起こったのである。
現在ミッションで行軍している山間は、2ndや3rdでも倒せるレベルのモンスターしか出没しない地域だった。弱いモンスターは概ね性質もおとなしく、よほど凶暴な種類でない限り向こうから攻撃を仕掛けてくる事はない。そのため行軍も比較的穏やかに進んでいた。だが、その先頭集団に不意に乱れが生じたのである。
どうやら先に攻撃を仕掛けてきた『敵』がいるらしい。本来はいないはずの凶暴なモンスターが突如この地に出没したのだろうか。どんな土地でもレアモンスターは存在するが、この地に出没するモンスターはレアでもさして凶暴ではないはずである。
暫し1st三人が様子見をする間に、先頭集団はほぼ壊滅状態へと追い込まれているようだった。何かがおかしい。アンジールは率先して先頭集団へと向かい疾駆した。ジェネシスも慌てて追従する。
果たして、そこにいたのはモンスターではなく武装した人間の集団だった。
「ウータイ兵!?」
「何故、ここに……?」
ただの訓練用として選ばれた任地。当然、敵軍などいない場所が選ばれたはずだった。
「一旦引け!! 引いて態勢を立て直すんだ!」
アンジールの怒号が伝令となって後方集団まで伝わる。そのスピードは、さすが2ndや3rdの中でも選ばれたエリートで構成されているだけあって疾風の如く速かった。
迅速に後方まで引いて隊列を整えると、ウータイ兵を避けて少し奥まった低地に布陣を敷く。先頭集団を襲ったウータイ兵は、その場に残ったジェネシスが足止めをしていた。
これから、どうするか。作戦を考えなくてはいけない。
とはいえ、神羅側は飽くまで訓練の為にこの地に赴いたのだ。よって当然ながら、装備や武器などもそれなりの物しか携行していない。予め戦争の準備をしてきた訳ではないのだ。
仮に戦の用意があったとしても安易に事を構える訳にはいかなかった。下手にここで抗戦してしまえば、意図しない情勢の変化も起こりうる。予定に無い抗争を起こして却って不利な状況に陥れば、それこそ本末転倒だ。戦略的にも戦術的にも戦うべき状況ではなかった。
つまり、この緊急事態を打開するには如何に被害を最小限にして撤退するかが命題なのだ。
少しひらけた場所を選んで地図を広げる。アンジールはセフィロスを手招きして、一緒に地図を見るように促した。英雄はこと自軍の事であっても放っておくと他人事のように無関心だ。こうして声を掛けてやれば、きちんと参加はしてくれるのだが。
地図を眺めてアンジールは思案する。逃走経路として考えられるのはざっと二つあった。
一つは峠を越えていくルート、もうひとつは厳しい行軍となるが崖沿いに抜けていくルート。どちらも一長一短がある。
峠を抜けるルートは、道程自体は楽だが下手をすると敵軍に囲まれてしまう危険性があった。この地にいるウータイ軍の戦力や兵力がどの程度なのか不明な為、その辺の判断が非常に難しい。一方、崖沿いのルートなら仮にウータイ兵の方が数的に有利であっても、振り切れる可能性が高い。また、こちらのルートの方がモンスターとの遭遇率も低い筈だ。
そういった事を、セフィロスに話し掛けながら作戦を詰めていると、ウータイ兵を一時撃破したジェネシスが戻ってきた。戻る途中、トラップを幾つか仕掛けてきたので多少時間稼ぎが出来るだろうと報告する。
「此処はもともとウータイ軍の隠し拠点だったようだな。神羅側が把握していなかったのは痛恨の極みとしか云えんが……。恐らく、俺達の行軍を見て拠点が発見されたと勘違いしたんだろう」
直接ウータイ兵と対峙したジェネシスは、自分なりの見解を披露してみせた。
ジェネシスを交え作戦会議は更に続けられる。結果、やはり崖沿いのルートが選ばれた。こちらは神羅精鋭のソルジャー部隊、対するウータイ兵はソルジャーのように特別な手術を受けている訳でもなく── いわゆる一般兵と変わりない。
崖沿いのルートは確かに危険ではあるが、ソルジャーの身体能力であれば進軍は充分に可能だ。しかし、一般兵であるウータイ兵には追跡困難であろうことは明白。途中で容易く振り切る事が出来るだろう。
作戦の概要はほぼ決まった。あとは出来る限り速やかに、正確に実行に移すのみ。最早、一刻の猶予も無い。
待機していた2ndや3rd達を一箇所に集めて、土地が不安定ながらも整列させる。
陣頭指揮官としてアンジールが隊列の正面中央に立った。
「諸君、これから我々は撤退戦を行う。君達は実にツイている。滅多にない『実戦での撤退戦』を経験出来るのだからな。これは、君達にとって希少で確実に実のある経験となるだろう。そして、最大限自分が逃げ延びる事、生き延びる事を考えろ! では、若きソルジャー諸君の武運を祈る!」
力強くアンジールが鼓舞すると、2ndや3rd達は一段と引き締まった表情をして、胸元に左腕の拳を当てた。
部下達が進軍準備に入ったところで、アンジールは彼等に背を向けセフィロスの方に向き直る。
「セフィロス、お前は出来る限り2ndや3rd達のサポートに回れ。今はまだ若輩者だが、神羅の将来を担う未来の1st候補達だ。人的被害は最小限に食いとどめるんだ。ウータイ兵の殲滅より自軍の安全を優先しろ」
セフィロスは幼い頃から神羅のソルジャーとして活躍していた為、自分に与えられた命令以外には関心が薄く、命令がなければ味方すら助けようとしない一面がある。命令とは無関係な味方の損害には一切関心がないのだ。逆に云えば、命令には至極忠実で、適切な指示さえ与えられれば味方の安全も考慮した冷静な行動が取れる。
セフィロスが、そのように極端な一面を持つ切っ掛けとなったのは、やはりプレジデント神羅なのだろう。
神羅の社長で絶対的権力者である彼は、時には味方に犠牲が出ることさえ厭わない。自分や会社にとって不利益と見做せば、味方であろうと社員であろうと容赦なく切り捨てる。そんな社長の下で長く勤めていたセフィロスが、命令外の味方の安否を気遣わなくなってしまったのもやむを得まい。
だから、アンジールもこういった場合は敢えてセフィロスに仔細な命令を与えてやるのだ。でなければ、ウータイ兵との攻防に集中してしまって、味方の被害に気が付かない可能性さえある。一旦敵軍の殲滅に夢中になってしまうと、自軍に関しては酷く無頓着になるのだ。
神羅の英雄に対して命令するなど、畏れ多いと感じる者もいるだろう。これはセフィロスとアンジールの間に揺るぎない信頼関係があるからこそ成り立つ指示系統なのだ。
命令が全軍に行き渡り、いよいよ作戦の実行に移る段階となった。ジェネシスはセフィロスと同じく、敵軍を陽動する遊撃隊として動く予定だ。作戦が始まる前に細かいところを詰めたくてセフィロスに声を掛けようと、彼の背後から右手を伸ばし掛ける。その時、セフィロスの長い銀の髪が風で綺麗に靡き翻った。
それが、ジェネシスにはまるで自分を拒絶するプラチナのカーテンに見えて、一旦伸ばし掛けた腕を引っ込めてしまう。声を掛ける事も躊躇われて動きが固まる。
と、その瞬間。不意にセフィロスが振り返り、ジェネシスに声を掛けた。
「どちらから、先行する?」
「あ、ああ。そうだな……」
セフィロスの方から気にかけてくれた事に驚き戸惑いつつも、素直に嬉しいとも思う。セフィロスは特に自軍の動きなど気にも留めず自由に進撃するような面があるから余計に── 。単に先程アンジールに注意された故の気遣いかも知れないが。
それでも── 例え単なる気遣いだとしても、期待してしまう。自分が多少なりともセフィロスの心を動かす存在になれたのか、と。同時に、未だセフィロスの自分に対する気持ちを特別なものだと受け止めてやる事が出来ていない自分に気付いて、申し訳なくも思う。
セフィロスに対して、もっと素直になれれば良いのに── 。
いや、素直になりたい以前に、そもそも自分から発するセフィロスへの気持ちさえ未だあやふやで不確定なのではないか。これは、果たして好意と云えるのか? 英雄への憧れが強すぎて、自分の本当の気持ちが判別出来ない。
簡単な打ち合わせをしている間、ジェネシスは上手くセフィロスの顔を見る事が出来なくなり俯いてしまった。
「大丈夫── か? 具合でも……」
すぐに様子を察して、気遣いを重ねてくれるセフィロスにやはり驚きと困惑と嬉しさと後ろめたさを感じつつ。
「ウータイ兵相手に少し魔法を使いすぎたかもな。すぐに回復する。心配は無用だ」
実際、潜伏していたウータイ兵は思ったよりも数が多く、ジェネシスはかなり魔力を消耗していた。だが、曲がりなりにも彼はクラス1stである。ジェネシスは「平気さ」と云わんばかりにセフィロスに笑顔を見せた。
その艶やかな笑顔に、まるで蝶が美しい華に引き寄せられるが如く、セフィロスはジェネシスの顔に己れの顔を近付けると間断なくキスをした。触れるだけのキスであったが、周囲にソルジャーもいる野外で実行された事にびっくりして、ジェネシスは反射的にセフィロスの身体を向こうへ押しやると、慌てて身を離す。
「な、何をするんだ? こんなところで……!!」
2ndや3rdは後方から順次追従してくる予定だから幸い周辺には居なかったが、近くにいたアンジールには見られてしまったかも知れない。
対してセフィロスはジェネシスが何に驚き、何に怒っているのかすら全く理解していないような表情で、不思議そうに首を傾げていた。
「もう、俺は行くからな!」
照れ隠しと憤りとで混乱した頭のまま、セフィロスに背を向けどんどん先に行ってしまうジェネシスの顔は真っ赤に染まっていた。
自分はまだ今ひとつ英雄に心を許せていない。これが、現状。それなのに、セフィロスはするりとその隔壁を乗り越えて懐に入って来ようとする。そして、皮肉な事にそんなセフィロスに、ますます心惹かれてしまうのだ。
セフィロスを後方に残し、単独で先行しながらジェネシスは大きく嘆息する。何か、何か切っ掛けがあれば素直になれる、そう思うのに。早く素直になってしまいたい、そう思うのに。どうしようもないディレンマに歯噛みして、苛々とした鬱積を抱えながら崖沿いのルートに向かう。
しかし、幾らか崖沿いルートに近付いたところで、なんとウータイ兵からの奇襲攻撃を受けた。勿論、ウータイ兵などクラス1stであるジェネシスにとっては雑魚同然。軽く一蹴して追いやったのだが、どうにも様子がおかしい。
1stならではの鋭敏な神経を研ぎ澄まし、周囲の気配を探ると、どうやら崖沿いに向かうルートは既にウータイ兵に押さえられ、あちらこちらに伏兵が潜んでいるようだった。不本意ながら、神羅軍側の思惑は読まれているらしい。
これが、自分だけ、或いは1stだけの行軍であったなら伏兵など蹴散らして崖沿いルートを強行するのだが、後続に2ndや3rd達が控えている事を考えるとその選択は妥当ではない。来た道を一旦引き返しジェネシスは、本隊に戻る。
ジェネシスからの報告を受けアンジールも新たな策を講じる為、偵察を兼ねて峠側のルートへ向かっていたセフィロスを呼び戻す。まさに疾風迅雷、韋駄天の如くセフィロスは素早く本隊に戻ってきた。
セフィロスが云うには、峠方面にはウータイ兵の気配は全く感じられなかったという。「ただ……」と、いつもより一段低い声で付け加える。
「峠側はモンスターの気配を多く感じた。ウータイ軍が居なかったのは、ウータイ側がモンスターを警戒している可能性がある」
「なるほど……」とアンジールが呟くように応え、そのまま熟考に入る。
ウータイ兵とモンスター。敵単体として強いのは圧倒的にモンスターの方であるが、実際のところは個々の力は弱くとも組織だった動きが出来る人間、つまりはウータイ兵の方が厄介だ。加えて、この地域は今まで特に凶暴なモンスターの出現は確認されていない。そして、自軍は三人の1stを除けば未だ訓練途上の戦闘能力的にも統率的にも些か不安の残る2ndや3rdが主体のパーティー。
1stの中でも屈指の洞察力と嗅覚、観察眼を持つジェネシスとセフィロスの意見は全面的に信頼して間違いない。となると、必然的に選ぶべき選択肢は決まってくる。
「峠側のルートを行こう!」
アンジールの低く強い決断の声に、親友達は無言で頷いた。
被害は極力最小限で抑える。突如敢行を余儀なくされた撤退戦であるが、この一点に於いて、1st三人の間で揺らぎは一切無かった。
峠側のルートも決して楽な行程ではない。1st達は必然的に、2ndや3rdを守りながら行軍することになるだろう。しかも、行軍速度は2ndや3rd達に合わせてやらなくてはいけない。下手をすれば、モンスターとウータイ軍、両方を相手に戦わなければならない可能性も出てくる。そういった最悪の事態も考慮しつつ、アンジール達は行軍を進めた。
峠側のルートに踏み入ってから暫く。三人の1st達は、何やら不穏な空気を感じ取っていた。
「やむを得ない選択だったとはいえ、こちらのルートも何か仕掛けがありそうだ」
元々、この地はウータイ軍の拠点。つまり、地の利は断然ウータイ側にある。
「そうだな。俺達は、こちらのルートを選ばされた── そんな気がする」
先程のアンジールの言に対してジェネシスが応える。明らかに、周囲からひしひしと伝わってくるモンスターの気配が尋常ではない。
「何か、来るぞ── !」
セフィロスがいち早く異変に気付き注意を促す。その次の瞬間。
「ベヒーモス!?」
突如目の前に現れた巨大なモンスターに、1st達は皆動揺を隠せなかった。この地に出没するはずのない凶悪なモンスター。しかも、一頭ではない。目に見える範囲だけでも数頭はいる。
to be continued
2013/1/14-22
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